第44章 掠めて※
「おや、安室透がお好みでしたか?」
そう言って一瞬向けられた笑顔が、どこか透さんのものに近くて。
あの優しく、暖かく、包み込んでくれるような笑顔。
でも、目の前にいるのは紛れもなく、バーボンだった。
「貴女も、もう気付いているんでしょう?」
視線を逸らしたい、声を上げたい、その欲求は全て透さんの瞳に吸い込まれていって。
「バーボン・・・これが僕のコードネームです」
ミステリートレインで聞いた時と同じ言い方で。
あの時私が聞いていたことを知っていると言いたげな物言いは、更に複雑な気持ちを増やしていった。
「貴女が大好きだった安室透は、僕が作った偽りの人間ですよ。まあ、貴女が舞い込んできたのはたまたまでしたが」
嫌だ、聞きたくない。
「貴女が僕の事務所に引っ越してくれば、簡単に消すことができたんですがね・・・。ベルモットが予定外の動きを見せなければ」
「そんなことしなくたって、身寄りはないんでしょ。その子」
ベルモットと呼ばれる女性は、新しい煙草に火をつけながら不機嫌そうにそう言って。
「僕は完璧主義者なんです。それに、さっきも言った通り、玩具としてはまだまだ使えるので」
再び視線が混じりあった。
でも、そこにあるのは恐怖だけで。
「楠田のことはお礼を伝えておきますよ。僕の入手した情報の、確証を得てくれましたからね」
今度はベルモットの方へと視線を向けながら、透さんがそう伝えて。
楠田についての情報の・・・確証?
「・・・それ、結局何の意味があったのよ」
「それはまた後日、お話するとしましょう」
そう言う彼を見つめながら、どの情報のことなのか考え込んで。
・・・私が漏らしてしまったのだろうか。
思うのはそんなことばかりで。
私の視線に気付いたのか、再び視線が合うとバーボンは不敵な笑みを浮かべながら、私の疑問を汲み取ってくれた。