第44章 掠めて※
「今は手を出さないと約束頂いたはずですが?」
「貴方がいつまでも焦らしているからよ」
小さく溜息をつく透さんをただ見つめることしかできなかった。
助けを求めようにも、今の彼は私が助けを求めたい彼ではない。
「彼女は僕の玩具であって、貴女の玩具ではありませんよ」
彼の吐き捨てた言葉に、絶望にも似た感情を抱いた。
そんな言葉、彼の口から聞きたくなんてなかった。
「あら、玩具にしては随分と優しく扱ってたようだけど」
ベルモットと呼ばれた彼女の足が眼前で止まって。
地面に転がる私の顎をクイッと持ち上げると、まじまじと顔を見つめられた。
「こういうのが好みなのかしら」
綺麗で吸い込まれそうな瞳に見つめられれば、乱れていた呼吸が止まってしまいそうで。
目の前の彼女がベルモットということは・・・やっぱりあの路地裏に連れ込んだジョディさんは、変装した彼女ということか。
「ただ遊んでいただけですよ。FBIの情報を探る、良い駒になって頂けましたしね」
それでも良いと、思っていたのに。
いざ彼の口から真実を突きつけられると、こんなにも胸が苦しくなるのは何故だろう。
私は・・・何を期待していたのか。
「じゃあ、さっさと始末してくれる?」
「貴女がそれを邪魔したんじゃありませんか」
笑顔は崩さず、呆れたように返すバーボンが縛られたままの私を抱き上げて。
「それに、玩具としてはまだまだ使えそうなんでね」
・・・嫌だ。
そう思うのは、彼がバーボンだからだろうか。
私の表情に気付いたのか、フッと笑みを浮かべると蔑むような目で見つめられて。
「良いですね、その絶望に満ちた表情。それが見たくて貴女を泳がせていたと言っても、過言ではありませんよ」
彼とは思えない言葉が次々と吐き出されていった。
耳を塞ぎたいのに、目を逸らしたいのに・・・
・・・いっそ、今ここで・・・殺してほしいのに。
「透・・・さん・・・」
彼に帰ってきてほしいと求めるように、泣きそうな声でか細く彼の名を呟いた。