第43章 二枚舌
「ち、違うんです・・・っ!」
必死に言い訳をしようとしたが、彼の笑顔がそれを止めた。
違うのに・・・貴方を拒んだわけではないのに。
「・・・ッ」
そんな顔、しないでほしい。
「ひなたさん・・・!?」
今までの気持ちが整理できなくなって。
このままじゃパンクしてしまいそうで。
彼とまだ一緒に居たいのに。
気持ちとは反して、体はいつの間にか車外に出ていて。
透さんが名前を呼ぶ声が聞こえたが、振り返ることはなく、ただただ逃げるように走り続けた。
「ひなたさん!」
何度も何度も、止まることを求めるように名前を呼ばれて。
だが、声が聞こえる度にどんどんとスピードを上げていった。
「・・・ッ・・・!?」
走っている最中、急に路地裏の方へと誰かに体を引っ張られて。
驚き過ぎて声なんて出る暇も無かった。
「し・・・っ」
物陰に隠れるように誘導され、そのまま息を押し殺した。
「・・・・・・」
透さんの走る足音が近付いてくる。
その度に心拍数は上がっていき、潜めている息は荒くなっていった。
「・・・・・・っ」
足音が遠のいていったのを確認し、小さく溜息をついた。
・・・どうしてこんな事をしてしまったんだろう。
真っ先に出てくる思いはそればかりで。
「こっちに来なさい」
路地裏に連れ込んだ人物が、更に奥へと私の手を引っ張って。
そういえば、暗闇で顔はよく見えないが・・・この声は・・・。
「ジョディさん・・・どうしてここに・・・」
「説明は後よ。急いで」
・・・さっきまでコナンくんと会話しているのを聞いていたのに。
彼女がここにいることはおかしいのに。
もしかして・・・彼女は・・・。
「・・・ッ」
掴まれていた手を振り解き、その足を止めた。
もう既に嫌な予感しかしていなくて。
「貴方・・・もしかして・・・」
その先を言いかけた瞬間、突然スプレーのようなものを顔に噴射され、私の意識は呆気なく奪われてしまった。