第43章 二枚舌
移動前に、御手洗に行くフリをして沖矢さんに移動する旨のメールを打った。
彼から返信はしないと言っていたから、一方的に報告をするだけのメール。
送信後そのメールを削除し、透さんの車へ向かうと、辺りはすっかり闇に包まれていて。
車に乗り込み、ジョディさんの車を追い掛ける形で、病院へと向かった。
「少し、飛ばしますよ」
そう言っていつもよりスピードを上げて車を走らせて。
そんな中で彼に話しかけることは何となくできなくて、シートベルトを掴んだまま、少し強めの揺れに耐えた。
「・・・!」
暫く走って、ジョディさん達が入って行ったのは杯戸中央病院で。
確かにここが一番近くて大きな病院かもしれないが・・・またこの病院。
「病院に着いてもひなたさんは、車から降りないでください」
「・・・分かりました」
何故かは疑問に思ったが、問いかけても教えてはくれそうになかったから。
病院の入口まえに止められたジョディさんの車の横に停車させると、すかさず透さんは車を降りて。
「何しに来た。もう用はないだろう」
「一応彼女は僕のクライアントなんでね」
車にいても、会話だけは聞こえてきて。
ピリついた空気までもが、痛いほどに感じられた。
「それに・・・君ならうっかり口を滑らせてくれそうだから」
「あん?」
車内にいるせいで、透さんの表情までは確認ができないが・・・きっとあの挑発的な笑顔を見せているんだろな・・・と思えば、出て止めた方が良いのではとも感じて。
「楠田陸道という男、知っていますよね?」
「楠田陸道?知らないな、そんな奴・・・」
病院の入口の方へ行ったキャメルに詰め寄るように、透さんも入口へとゆっくり足を進めた。
「ここの病院の入院患者で、この近くに車を乗り捨てて姿を消した男ですよ。何でも拳銃が絡んでるとか・・・お仲間から聞いてませんか?」
「さあね・・・」
恐らくキャメルさんは知っているんだろうが・・・本当に透さんは楠田陸道の何を知りたいんだろう。
彼が死んだことは知らないのか、隠しているのか・・・その辺りが明確でないことから、彼の生存確認をしているのかとも考えた。
ただ、それがなんの為かはやっぱり分からなくて。