第5章 となり
コナンくんから貰ったメモは安室さんに見つからないように鞄へ隠した。
コナンくんと安室さんがどういう関係なのかは未だによく知らない。
毛利探偵の弟子ではあるし、多少の接点はあるのだろうけど、最近のコナンくんは安室さんに対して少しよそよそしい気もした。
「では、車を回してきます」
「分かりました」
そういって彼は近くの駐車場へ向かった。
この一人の時間が落ち着くようで、要らない考えが増えて落ち着かない。
ふと空を見上げると、小さな星が幾つか輝いている。
空なんて見上げること、最近なかったな・・・なんて思っていると。
ゾクッ・・・と、背筋をヒヤリとした空気が撫でるように抜けた。
誰かに見られている。
直感的にそう感じた。
慌てて辺りを見回すが、昼は人通りが多いこの辺りでも、暗くなった今は人通りが無く誰もいない。
恐怖で呼吸が荒くなった。
嫌な予感がする。
兄が亡くなったという手紙を見た時と似ている感覚。
全身に力が入らなくて、両手で腕を掴んだままその場に座り込んだ。
抑えたくても体が震え、恐怖で押しつぶされそうになった。
その時、安室さんの白いスポーツカーが姿を現した。
「ひなたさん・・・!?」
彼は慌て様子で、車を降りて駆け寄ってきた。
ああ、また迷惑をかけてしまった。
「大丈夫ですか?」
座り込む私の隣に同じようにしゃがみ、顔をのぞき込む。
安室さんの顔を暫く見つめて、呼吸を落ち着かせた。
心配している顔。
そんな顔させてしまってごめんなさい。
心の中で謝りながら、安心で涙が溢れた。
「あむろ、さん・・・っ」
彼の服の裾をギュッと掴むが、震えは止まらない。
それを感じたのか、安室さんは落ち着くまでひたすら背中をさすってくれた。
「・・・立てますか?」
少し涙と震えが治まってきたところで、安室さんに支えられながら助手席へと半ば運んでもらった。
「・・・何があったか聞いても大丈夫ですか?」
何があったか。
特に何かあった訳ではないが。
何をどう説明して良いのか分からず、ただ目を泳がせた。
「無理に話さなくても大丈夫ですよ。僕で良ければ話したくなったら話してください」
安室さんが良い。
安室さんでなければ話したくはない。
そう思ってはいるのに言葉が出てこない。
そのもどかしさにまた涙が出そうだった。