第42章 不信感
「事件というのは?」
「昨夜、彼女が何者かに杯戸公園の階段から突き落とされまして。ただ、現場の状況から彼女が襲われたのはそこではなく、小学校ではないかと推測されています」
だから小学校に呼ばれたのか、と納得を深めて。
ただ、私がついていく理由についてはまだ疑問が残ったまま。
腑に落ちない気持ちを抱えながらも、資料の内容をなるべく頭に叩き込んだ。
「彼女は・・・無事なんですか?」
「昨夜病院に運ばれましたが、まだ意識不明の重体です」
想像以上に重い状態で驚いて。そこまで彼女を追い込むということは、立派な殺人未遂だ。
・・・そんな犯人を、許すことはできない。
「こちらです」
犯人への怒りが湧いてくる中、数分歩いたところで角を曲がると、ようやく小学校が見えてきて。
持っていた資料を透さんに渡し、それを彼の車に置いてから校内へ歩みを進めた。
「・・・・・・」
廊下を進む度、鼓動が早くなる。
ある意味部外者の私が、事件現場に足を踏み入れて本当に大丈夫なのだろうか。
「ご心配無く」
私の気持ちを察してか、透さんがひっそりと声を掛けてくれて。
「僕がついていますから」
向けられた笑顔にドキッと心臓を高鳴らせ、更に鼓動が早くなるのを感じた。
少し先の教室に人が集まっているのが見え、自然と視線はそちらへ移って。
入口に職員室の文字があることから、その部屋がそうであることは分かるが、明らかに職員では無いような人達もいて。
彼らが刑事だということは、何となく察しがついた。
「その上、妙な探偵まで雇いやがって!」
そんな言葉がその教室から聞こえてきて。
怒っているような・・・男性の声。
「あの先生の家に直接怒鳴り込んでやろうと思って後をつけて行ったら、いきなり胸ぐらを掴まれたんだよ!」
そう声を荒らげる男性の言葉を聞いた透さんが部屋の前で一度足を止め、口角を上げたのを見逃しはしなかった。
「仕方ありませんよ」
そう言いながら、透さんは職員室前に群がる人の合間をすり抜けて部屋に顔を出して。
なるべく彼から離れまいと、その背中を追うようについていった。