第41章 苦い罠※
「その引越し、彼が仕掛けた餌に食いつくまで待って頂けますか」
まだその餌に透さんが掛かるなんて保証は無いのに。それとも、彼には確証があるのだろうか。
「・・・それはいつになるんですか」
「それは僕にも分かりませんが、あの彼のことですから近い内に動くでしょうね」
確かにあれが組織としての接触であれば、このまま放っておく可能性は低い。
だけど、あれを透さんが聞いていない可能性もある。
・・・確率としては低いだろうけど。
「・・・分かりました。ただ、その間沖矢さんと一緒に行動はしません。送り迎えも不要です」
何なら今の私は、組織の人間より沖矢さんに対しての方が危機感を持っている気がする。
透さんの言葉がチラつく中、沖矢さんの瞳をジッと見つめた。
「では僕からも。ここにいる以上は、今まで通り彼と会うことを含め、外出する際は必ず僕に一言伝えてください。そして、彼が妙な行動を起こした際には必ず報告を」
そう、当初沖矢さんとはそういう関係だった。
最初の関係に正すだけ。
そう思えば怒りも少しは抑えることができる気がした。
「分かりました」
話の終わりを感じ取り、沖矢さんに掴まれていた腕を引き剥がして部屋を後にした。
ゲストルームに戻り、カバンの中身を整理していると、そこには入れた覚えのない透さんのスマホが入っていて。
確か透さんに奪い取られてそのままだったはず。
あの壁に追いやられていた時に、戻されたのだろうか。
そう思いながら画面を付けると、そこにはあの時のまま、沖矢さんの番号が表示されていて。
そういえば、沖矢さんに謝るのをすっかり忘れていた。
・・・いや、厳密に言えば彼はもうこの事実を知っているんだけど。