第41章 苦い罠※
「ご安心ください、ここには来ませんよ。来ないことが分かっていての行為です」
それなら尚更最低だ。
透さんがここに来れないことが分かっていて手を出し、盗聴器越しの彼に快楽に溺れた声を聞かせろだなんて。
「・・・嫌いです」
心の底から。
そうなり切れないことは自分がよく知っているけど。
「それは困りましたね」
言葉と表情は一致していなくて。
それでも、彼に頼っている部分があることが悔しい。
・・・悔しい。
「・・・・・・ッ」
彼の服を掴んで、その胸に顔を埋めて。
透さんには聞こえないように、声を押し殺して泣いた。
その間、沖矢さんは優しく背中をさすって。
そういう優しさは、欲しくないのに。
また、嫌いになり切れなくなる。
「沖矢さんなんて・・・嫌い・・・っ」
「そこまで言われると、僕でも傷つきますよ」
嘘つき。
私が言えたことではないけど。
「盗聴器・・・お願いですから、捨ててください・・・っ」
情で訴えるつもりは無かったけど、結果そういう形になってしまって。
こんな自分も・・・嫌いだ。
「・・・まだ餌としては弱いですが、仕方ありませんね」
私の肩を掴んでゆっくり体を離すと、ハンカチに包んだそれを窓から捨てた。
ようやく普通に声が出せる。
少なからずそれには安心を覚えた。
「これでよろしいですか?」
手の甲で涙を拭いながら彼を睨んだ。
今は、さっきまでの声を透さんがなるべく聞いてないことを祈るだけで。
「帰りましょうか。話はそれからです」
そう言いながら沖矢さんは車のエンジンをつけた。
彼と話なんてしたくはないけど、聞いておかなければならないことは沢山ある。
冷静に聞けるかどうかは分からないけど。
沖矢さんからそっと視線を外して気持ちを落ち着けていると、頭に何かを被せられて。
「・・・!?」
「冷えますからそれでも掛けておいてください」
掛けられたものを確認してみると、それは沖矢さんがさっきまで身に付けていた上着だった。
「・・・・・・」
素直にお礼の言葉は出てこなくて。
僅かに感じる沖矢さんの熱と匂いに、どこか安心してしまったのは、気の所為だと何度も言い聞かせながら、それで身を包んだ。