第40章 敵味方※
「・・・透さん・・・?」
もう一度小さく名前を呼ぶと、素早く彼の体が離れて。
ようやく見ることができた彼の表情は、我に返ったように驚きとも困るとも焦るとも取れるような複雑な表情で。
どうして・・・貴方がそんな顔をするの。
「と・・・」
「・・・すみません。また連絡します」
私の言葉は聞かれること無く、透さんは沖矢さんの横を駆け抜けるように去ってしまった。
最後に見せたあの彼はバーボンではなく・・・きっと安室透。
でも、一瞬だけ感じたそのどちらでもない彼は・・・一体。
「遅かったですか?」
呆然としていたところへ沖矢さんに声を掛けられて我に返った。
相変わらず理解のできない笑顔を浮かべたまま、彼は近付いてきて。
「FBIの方と会うと・・・お聞きしましたが?」
「・・・その方と別れた後、出会したんです」
別に私の意思じゃない。
心の中でそう言い返して。
「とにかく車へ。ここでは体が冷えます」
確かにこの季節にここは寒過ぎる。
今は沖矢さんの指示に従い、大人しく車へと足を進めることにした。
「・・・あの、沖矢さ・・・っん」
助手席へ乗り込み、電話番号を漏らしてしまったことを謝ろうとした瞬間、その口は彼の手によって塞がれた。
・・・目の前の彼もまた、沖矢昴ではないみたいで。
「・・・・・・」
反対の手の人差し指を口の前に立て、静かにしろとジェスチャーで示される。
何となくその行為で、盗聴器を調べるんだということが分かって。
この非日常に段々と慣れてきている自分がどこか虚しくも思えてくる。
後部座席から盗聴発見機を取り出し、沖矢さんが調べ始めた途端、彼の深くなる笑みを見てそれは反応を示したんだと悟った。
「・・・?」
徐ろに運転席の下に手を入れた沖矢さんは何かを探りだし、そこから手を引き抜いた時には何かを持っていて。
それが盗聴器だということは嫌でも分かったが・・・何故、そんな物が車外ではなく、車内にあるのかが気になった。