第40章 敵味方※
「・・・!」
軽井沢でされたあの時のように追い詰められ、背中が冷たいコンクリートの壁へと接触した。
嘲笑うような笑みを浮かべたまま何も言わず、状況を見守る沖矢さんへは、怒りに似た感情すら生まれてしまって。
「・・・・・・ッ!」
こんなにもときめきのない壁ドンがあるのだろうか、と思わず考えてしまうくらい、威圧感で溢れた透さんの手が顔の横へ突き出されて。
反射的に瞼は固く閉じられた。
「誰かへ助けを求める為に・・・スマホを取ったんじゃないですか」
耳元で私だけに聞こえるように囁かれれば、自然と体はピクリと反応を示して。
沖矢さんの電話番号が・・・目的だったのだろうか。
逆に考えれば、そうとしか考えられなくて。
「・・・・・・」
また下手なことを言えば今度はジョディさんにも被害が及ぶかもしれない。
彼女と話した内容は聞かれていなくても、一緒にいる所は見られている可能性が大きい。
ただ、何も言わなければそれは彼に肯定として取られてしまう。
頼みの綱の沖矢さんが、助けてくれる気配は無さそうだし。
「どうして・・・あの男ではなく、僕に助けを求めようとしなかった」
「・・・っ・・・」
・・・違う。
透さんじゃない。
そして・・・バーボンでもない。
明らかに変わった口調と声色に、心臓が何秒も止まったような感覚を受けた。
「・・・透、さん・・・?」
恐る恐る、聞こえるか否かくらいの小さな声で名前を呼んで。
耳元に彼の顔が近いせいで表情は見えなかったが、その方向へ必死に目線だけをやった。
「・・・?」
僅かに感じた異変。
それは、私を覆うように立つ彼の体からだった。
小刻みに震えるその体は、寒さに耐えるという震えではなくて。
「あまり彼女を怖がらせないで頂けますか?」
今まで沈黙を守ってきた沖矢さんの声が透さん越しに聞こえてきて。
・・・確かにバーボンは怖い。
さっきの雰囲気も威圧感だらけで。
でも今の彼は・・・不思議と怖いと思わなかった。