第5章 となり
複雑な感情のまま、お昼のピークを過ぎた。
「まかない、オムライスでどうですか?」
そう言われて思い出すあの存在。
「あのっ、お弁当、作ってきたんですけど・・・」
今更になって恥ずかしくなってきて。
途端に顔を向けることができなくなり、彼から視線を外してしまった。
「では、今日はひなたさんの手作り弁当ですね」
出しかけていたオムライスの材料を冷蔵庫にしまいながら、彼がそう答えて。
それを聞いて、急いでスタッフルームにお弁当を取りに向かった。
「味の保証は・・・」
「大丈夫です、僕が保証します」
どうして安室さんが、なんてことは思っても勿論言えないまま、持ってきた安室さん用のお弁当箱を手渡した。
「ありがとうございます、いただきます」
「ど、どうぞ・・・っ」
蓋を開け、おかずを口に運ぶのをドキドキしながら見守った。
「どう、ですか?」
「美味しいですよ。とっても」
笑顔で言われたその一言で報われた気がして、全身の力が抜けた。
「これ、やっぱり美味しいですね」
それは以前、安室さんが好きと言ってくれたおかず。
やっぱり入れておいて良かった。
「ありがとうございます、そのおかずに合うように他のものを詰めてみました」
「ひなたさんはいいお嫁さんになりそうですね」
突拍子もない返答にせっかく抜けていた力がまた全身に入る。
「お、およ・・・っ!?」
どうしてそんな台詞を恥ずかしげもなく言えるのだろうか。
・・・そしてそれは一体何人の人に言ってきたんだろう。
挙動不審な私を暫く笑顔で見つめ、再びお弁当に手をつけた。
早く片付けてしまおうと、次から次へと口に詰めた為、味なんてよく覚えていない。
「ごちそうさまでした」
安室さんから返されたお弁当箱は洗われた後で。
「お粗末様でした。そのままでも良かったのに・・・」
「いえ、せめてものお礼です」
このお弁当自体がすでにお礼なのに。何もかも安室さんの方が一枚上手で為す術がない。
でも、空っぽで返ってきたお弁当箱が妙に嬉しい。
やっぱり、私は安室さんのこと・・・。
なんてお弁当箱をロッカーにしまいながら思っていると、ふと気付く今朝のメモの存在。
落ち着いていた胸騒ぎがまた戻ってくる。
・・・今は忘れよう。
そう言い聞かせてメモを更に奥へ詰め込んだ。