第38章 独占欲
「・・・・・・ッ」
額に受けた、あの柔らかい感覚がまだ残っていて。
暫くは消えそうもないその感覚に、今更恥ずかしさが込み上げてきた。
そういったことをされるのは初めてではないのに、妙に恥ずかしく感じるのは何故だろう。
そう思いながらまた深く俯いて。
暫くそのまま冷静さを取り戻している時に、突然ドアをノックする音が部屋に響いた。
「入ってもよろしいですか」
沖矢さんの声がドア越しに聞こえて。
本当は拒否したい気持ちでいっぱいではあるが、彼にはいくつか聞いておきたいこともある。
「・・・どうぞ」
返事をするとゆっくりと扉が開いて。
近付いてくる沖矢さんには、警戒心を剥き出しにしたままキツイ視線を向けた。
「そんなに怖い顔をしなくても、何もしませんよ」
その言い方は、半ば彼に笑われているようで。
少しの苛立ちを覚えながらも、小さく深呼吸をして冷静さを保った。
「・・・何かご用ですか」
「おや、約束は覚えていると聞いた覚えがありますが」
そういえば沖矢さんと電話でそんな話もした気がする。ただ、未だに二つ目のそれが思い出せていなくて。
「すみませんが忘れてしまいました」
正直、不思議と悪いとは思っていなくて。例え協力関係だとしても、それ以上に沖矢さんはいけ好かない男性として見てしまっていたからかもしれない。
その悪びれた様子の無い私を見て、沖矢さんは笑いを漏らした。
「では、思い出させてあげましょうか」
ゆっくり伸びてきた手が頬を撫で、そのまま顎を持ち上げて。
透さんならきっと鼓動が早くなったり、身構えたりするんだろうけど。彼に改めて伝えたからだろうか、沖矢さんのこういった行為には何とも思えなくなっていた。
「何もしないんじゃなかったんですか。それに、私は思い出さなくても困らないので」
軽く手の甲で沖矢さんの手を払うように避けて。
忘れているということは、私にとって都合が良いことは無いことだろうと判断しての行動だった。