第38章 独占欲
「ん、ぅ・・・ふ・・・ぁッ」
ねっとり絡まる舌が、足から力を奪い取っていく。
沖矢さんに見せつけるように、透さんはわざとリップ音を立てながら角度を変えた。
次第に肩を掴んでいた沖矢さんの手は緩まりながら離れていって。
縋っていた体は完全に透さんへと移行した。
「・・・きゃ・・・っ!?」
唇が離され、透さんが少ししゃがんだと思った瞬間、ふわりと足が宙に浮いた。
「彼女は僕が部屋まで運びます」
沖矢さんを睨み付けながら、そう言い放って。
相変わらず笑顔は崩さない沖矢さんへ、僅かに恐怖すら感じた。
沖矢さんの返事は聞かないまま、門を抜けて玄関を開けると、そのまま室内へと足を進めた。
「と、透・・・さん・・・?」
小さく名前を呼んでみるが、一点を見つめたまま歩く彼から返事は返ってこなくて。
安室透の雰囲気ではない。
直感でそう思った。
だとしたら今、目の前にいる彼は・・・バーボンということか。
「・・・・・・?」
ここでまた一つの違和感を感じた。
私は彼に・・・部屋の場所を教えただろうか?
迷いなく私が借りている部屋に向かう透さんに恐怖が募ったが、あの時・・・沖矢さんのフリをして入ってきた時に家を調べられていたとしたら、知っていてもおかしくはないか、と自己解決して。
「・・・・・・」
借りているゲストルームの扉を開き、ゆっくりとベッドに降ろされた。
「・・・すみません、傍にいられなくて」
「え・・・?」
少し悲しそうな笑顔は、紛れもない透さんの物で。
でも、彼の言葉にはどこか引っ掛かりを感じた。
「・・・大丈夫です、私は透さんしか見えていませんから。・・・なので、あまり喧嘩はしないでください・・・」
できれば二人、顔を合わせないのが一番ではある。
それに、これ以上透さんに沖矢さんが目を付けられると、組織について調べていることがバレる可能性が出てくる。
そうなればコナンくんへの被害は私だけでは抑えきれない。
それだけは避けたいのに・・・沖矢さんの行動には理解し難いものが多かった。