第38章 独占欲
「ひなたさんから、付き合ってはいないと聞いていますので」
「ち、違・・・ッ!」
否定しかけて、沖矢さんの言うことに間違いはないと気付いた。でも、それはどこか語弊を生むような言い方で。
「・・・ッ・・・」
透さんが、見れない。
沖矢さんの言うことを透さんは鵜呑みにしていない、と思ってはいるけど。
否定しかけたのはそういう意味じゃないのに、と何度も心の中で言い訳をして。
別に透さんと付き合っていないから、沖矢さんのキスを受け入れた訳でもなく、ここに住んでいる訳でもない。
貴方と、付き合ってなんかいなくても・・・。
「奪い取れるとでも、お思いですか?」
煽るような言い方に、思わず視線を向けた。
そこには勝ち誇ったような笑みで車に手を付く透さんの姿があって。
彼の言葉を何度か脳内再生するが、それが意味することは私の小さな脳の中では一つしかなくて。
「さあ、それはやってみないと分かりませんね」
沖矢さんも煽るような言い方で不気味な笑顔を浮かべながら言い返して。
彼も透さんに突っかかる理由がよく分からない。
本当にこの人は私のことを・・・なんて考えてしまう。
暫く無言のまま、二人が睨み合って。
何も口出しできないまま時だけが経っていった。
「と、透さん・・・っ、用事・・・大丈夫ですか・・・?」
それは単純に心配にも思ったことだが、これ以上ここで睨み合い続けても色々埒が明かない。
「・・・そうですね。例の件はまた、近いうちに連絡します」
「・・・待ってます」
その例の件が赤井秀一の最後のピースを拾いに行くこと、というのはすぐに判断できた。
透さんとの約束は思い出せるのに、沖矢さんとのそれは丸っきり覚えていないことを感じれば、彼に哀れみに似た感情も生まれて。
「・・・と、透さ・・・っ、ン・・・ッ!」
透さんがこちらに近付いてきたと思ったら、沖矢さんの横で唇を塞がれて。
自然と沖矢さんにしがみついていた手は透さんの方へと移動していった。