第38章 独占欲
「ありがとうございました」
工藤邸の門の前で降ろしてもらい、開けた窓から透さんにお礼を言って。
「ポアロにもまた来てください」
「はい、近い内に・・・」
彼の言葉に応えかけていた時、背後から玄関の開く音がして。
誰が出てくるかなんて予想はできているから、こんなに胸騒ぎがするのだろうか。
嫌な予感がするまま、ゆっくりと視線を後ろに向けて。
「・・・沖矢、さん・・・」
「思ったより早いお帰りですね」
門の向こう側から彼が近付いてくる。
胸騒ぎがどんどん大きくなって。
「送ってもらったんですか」
門を開けながらわざとらしく透さんの車に目を向けて。
タイミング良く出てきた辺り、ずっと外を見張っていたんじゃかいかと思ったが、そんな言葉が口から出てくるはずもなく。
「・・・いけませんか」
「いいえ?ただ・・・」
嫌悪感は丸出しのまま彼に言い放ったつもりだが、それを何とも思っていない様子で私の横に立ったと思えば、突然肩を引き寄せられて。
「ちょ・・・っ、沖矢さん・・・!」
透さんの前でいきなりそんな事をされれば、彼を見る勇気なんて無くなってしまって。
体を押して剥がそうとするが、腰が痛くて上手く力が入らない。それどころか、僅かに彼へ縋るような格好になってしまって。
「寂しい思いをしましたので、僕にも少し構って頂きたいですね」
何の冗談かと彼の顔を見あげれば、どこか余裕そうな笑みを浮かべていた。それにどこかさっきとは違う胸のざわめきを感じた。
「・・・他人のものに手を出す趣味は無いとお聞きしたと思いますが」
いつの間にか車から降りた透さんが、ゆっくりと近付いてくる。
怒っていることは誰が見ても一目瞭然で。
一触即発、というのは正に今のことを言うんだと思いながら、沖矢さんが掴む肩に力が込められたことを感じた。