第38章 独占欲
「・・・はい」
少し低い声で電話に出ると、そう一言告げて。
そのままスマホを耳につけ、私から離れるように部屋の隅へと移動していった。
わざわざ私から離れたことに違和感を持てば、それは組織の人間からのコンタクトではないかと疑った。
時々、彼がバーボンだと言うことを忘れてしまいそうになる。
ただの安室透として見てしまうことが。
彼に危機感を覚えた方が良いと言われたあの言葉は、安室透からバーボンに向けて言われたような気もして。
「・・・すみません、急な用事が入ってしまって。すぐに帰る支度ができそうですか?」
向こう側から透さんが戻りながらそう言って。
その言葉を聞けば、心臓がドクンと音を立てた。
「あ・・・大丈夫です。着替えるだけなので」
悟られないように、小さな笑顔で応えた。
彼の言う用事が組織の仕事だとしたら・・・私と別れた後はバーボンになるんだろうか。
そう考えると、少し悔しさの様なものが滲み出て。
何もできない自分が・・・不能で情けない。
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まだ腰はそれなりに傷んだが、透さんに手伝ってもらいなんとか着替えを済ませて。
透さんのコーヒーが飲めなかったのは残念ではあるけど、色々と有耶無耶なまま別れられるのは、今の私にとっては都合が良い気がした。
「・・・ひなたさん」
「はい・・・?」
透さんの車で工藤邸へ向かう道中、突然彼から呼ばれ横顔に目をやった。
その顔に笑顔は無くて、どこか嫌悪に満ちた表情が貼り付いていて。
・・・沖矢さんのことだな、と何となく察しながら彼の言葉の続きを待った。
「あの男との二つ目の約束、思い出したら是非教えてください」
そういえばそんな話もしていた気がする。
未だに思い出せていない辺り、本当にそんな約束をしていたのかどうかすら、自分の中で疑問を持っていて。
「・・・はい」
教えられるものなら良いのだけど。
そう思いながら視線を落とした。