第36章 幸せな
「さあ、どうでしょう」
そう誤魔化すということは、何となく肯定しているように感じて。
沖矢さんとのことで、謝ること・・・。
「・・・彼にコーヒーを毎日入れていたこと・・・ですか」
「それは初耳ですね、そんなことまでされてたんですか」
当たり障りの無い部分から攻めたつもりだったが、思いの外ダメージは大きかった。
透さんの笑顔が益々怖く感じて。
「す、住まわせてもらっている立場だったので・・・」
実際、それ以外は特に彼に何かをした覚えもされた覚えも無くて。
キスされたことはもう伝えたし、それ以上のことも無かったことは無いが、伝えるつもりはなくて。・・・沖矢さんがバラしていたら話は別だけど。
「ヒントをあげましょうか。一度、僕にメールを打ってきましたよね」
メール・・・そういえば、熱でうなされている中、彼の声が聞きたくなって連絡をとった。
そういえばその時、沖矢さんが急に部屋に入ってきて。
「・・・沖矢さんの存在を隠したことですか・・・?」
確かにその時、嘘をついた。
彼はその存在に気が付いていたのに。
「それもですが・・・その前にもう一つ、嘘をつきましたよね」
何か言っただろうか。
あの時は熱もあったせいで、少し記憶があやふやになっていて。
必死に彼との会話を思いだすが、その間が思い出せない。
「・・・風邪など引いてませんか、という言葉に・・・ひなたさん、何と答えたか覚えていますか」
そこまで言われれば、嫌でも分かって。
「・・・す、すみま・・・せん」
とにかく先に謝罪の言葉を口にした。
確かに吐いている。
息をするようにその時、嘘を吐いた。
心配してくれた彼の言葉を蹴りあげるように、自身の状態を隠した。
「どうして僕を頼ってくれなかったんですか」
頼った結果、ああなってしまった。
彼にすがり付いてしまったからこそ、沖矢さんのことがバレたんだ。
いや、もっと前にバレていたのかもしれないけれど。
「・・・透さんに、迷惑が・・・」
それ以外私には言い訳が用意されていなかった。
貴方がバーボンでなければ、貴方以外頼ることは無かったのに。