第34章 言の葉
『最後に彼に言いたいことがありますので、変わって頂けますか?』
変わるも何も、透さんはずっと私達の会話を聞いている。
沖矢さんだってそれに気付いているんだろうし。
そう脳裏で考えながらも、表情の見えない透さんの顔へ視線を向けた。
沖矢さんの声が聞こえたのか、彼は一瞬動きを止めて。
そのまま表情は確認できないまま、スマホを奪い取られ、部屋の隅へと行ってしまった。
私と沖矢さんの会話は聞かれるのに、透さんとの会話は聞かせてくれないんだ、なんて少し心のどこかで拗ねてみては、透さんの背中を暫く見つめた。
透さんは何かをぼそぼそと喋り、会話の内容は全く聞こえなくて。
軽く荒れてしまった息を少しずつ落ち着けながら、黙ってその様子を伺った。
暫く経った後、透さんは電話を切った様子を見せ、こちらに戻ってきて。その間にスマホは机の上に置かれた。
表情はやっぱり確認できなくて。
それがまた恐怖を積み重ねた。
「・・・!」
傍に来るなり急に何の前触れも無く、彼はいつも私を運ぶように横抱きにしてみせた。
向かう場所も、降ろされる場所も検討が付いていて。
「・・・っ!」
手付きはゆっくりだが、少し乱暴にも感じるような置き方でベッドへ降ろされた。
そこへ透さんはすかさず覆い被さって。
「貴女にはもう少し聞いておかないといけないことがありそうです」
「・・・っ」
同じように耳元で囁かれれば、体がピクリと反応して。
無意識に彼の服をキュッと握り締めながら、それに耐えた。
「随分、彼とは仲が良さそうですね」
透さんの顔が耳から離れ、やっと表情を読み取れたが、それは真っ黒な笑顔で塗りつぶされたものだった。
「よ、良くは・・・ありません」
ダメだ、これ以上は沖矢さんを庇いきれない。
あれは沖矢さんにも絶対に非があると、心の中で彼を半ば裏切って。
「僕が見たことのない貴女が、そこにいるようでしたよ」
沖矢さんにも似たようなことを言われた。
自分の方が素の私を知っている、と。
でも、それは。
「・・・嫌いな人にしか見せない姿だと言ったら・・・納得してくれますか・・・?」
これは嘘偽りの無い言葉。
彼へ好意を抱いたことは、ただの一度もないのだから。