第34章 言の葉
「も、もしもし」
恐る恐るスマホを耳につけ、沖矢さんに話し掛けた。
『今日はそちらへお泊まりになられるのですか?』
突拍子もない質問に沖矢さんらしさを感じつつ、ゆっくりと透さんにアイコンタクトを取って。
さっきとは一変して優しく笑いかける彼の表情で、もうそれは決定事項なことを察した。
「は、はい」
それ以上は透さんを見ていられなくて。
視線を逸らしながら、沖矢さんに返事をした。
「また、戻る時は連絡を入れます」
だから早く電話を切って欲しい。
これ以上、透さんを怒らせたくはないから。
『おや、ここにいることを話されたんですか』
とことんわざとらしく、そう問われて。
透さんが、今日は自分が預かる、と言った時点で恐らく気付いていたくせに。
「・・・いけませんでしたか」
『いえ、構いませんよ。彼ももう知っていたでしょうからね』
恐らくこの電話がスピーカーになっていることに、沖矢さんは気付いている。
それは彼自身もしたことのある行動だし、何よりさっきの言葉は透さんに向けて言っているようだったから。
「あの・・・何か話があるんですか?」
そう言われて透さんからは電話を受け取った。この確認がその話だとは思えない。
でも沖矢さんは何かを話す素振りを全く見せなくて。
透さんが言った三分とは恐らく会話時間だろうから、早くしないといけないのでは、とこちらの方が心配になって。
『あの時の約束、忘れていませんよね』
「約束・・・ですか?」
彼とそんな物を交わしただろうか、と考え込んで。
確かに何か言ったような気がする。
確か沖矢さんのフリをした男・・・恐らく透さんに眠らされて起きた後。
透さんからのメールを二人で見て・・・。
「・・・!」
危険だと感じたら、すぐに連絡をすること。
彼とその時交わした約束。
恐らく彼はその事を言っているんだと思った。
透さんといることは危険だと遠回しに言いたいのだろうか、と考えて。
『まさか、忘れてはいませんよね?』
「・・・忘れてませんよ」
煽るような沖矢さんの物言いに、少し拗ねたような口調で返した。