第34章 言の葉
少しの間の後、静かに透さんが私の鞄の中から彼のスマホを取り出して。
彼が手にするスマホの画面には非通知の文字。
・・・沖矢さんだ。
直感で、そう思った。
寧ろ、彼以外には考えられなくて。
「・・・っ」
一瞬、ピリついた空気を感じ取り、透さんに目を向けた。
明らかに、怒っている。・・・というよりは、殺意に溢れたような表情で。
今までに見たことのないような狂気に満ちたその表情から感じられるものは、恐怖以外の何物でもなかった。
一呼吸置いた後に透さんは受話ボタンを押して。
「・・・安室です」
いつもの透さんの声色だけど、どこか怒りを含んだ物言いで。
何もできず、ただただ彼を見守ることしかできなかった。
「これは僕のスマホですので」
当然だが相手の声は聞こえなくて。
でも、透さんの返答から何となく会話とその相手は想像できた。
「それはお断りします。今日は僕が彼女をお預かりします」
・・・なんだろう、何を断ったんだろう。
聞きたいけど、そんなことは勿論許される訳もなく。
「・・・三分です。それ以上は与えられません」
それを言った数秒後、透さんは私にスマホを差し出した。
その行動が何なのか戸惑っていると、少し不機嫌そうに透さんが言葉を続けた。
「あの男がひなたさんに話したいことがあるそうです」
「・・・沖矢さんが?」
やっぱり相手は沖矢さんなんだ、とやっと確信できて。
だが、わざわざ透さんを通してでも話したいこととは何だろう。
理由は不可解なまま彼からスマホを受け取ろうと手をかけた瞬間、何故かその手を掴まれ固定された。
どうしたのかと目で訴えかけた時、透さんはもう一方の手でスピーカーをオンにした。
「・・・・・・」
ゆっくりと離された手に、もう話しても良いという無言の合図を受け取って。
これで沖矢さんとの会話は筒抜けだ。
聞かれてまずい会話は沖矢さんもしないだろうけど、その行為はどこか緊張を高めた。