第34章 言の葉
「と、透さん・・・?」
彼の言葉と行動が矛盾していることに頭が混乱する。
「連絡をするなら、こちらからどうぞ」
そう言ってポケットから違うスマホを取り出して。
恐らく彼の予備ではないもの。
「今、お貸ししているものにも番号は入っていないんでしょうから」
バレてる。
私が沖矢さんの電話番号を暗記していることすら。
・・・いや、単純に考えれば当たり前のことか。
ただ、彼のこのスマホで電話をかければ、沖矢さんの電話番号までもが彼にバレてしまう。
それがどんな危険に繋がるかは分からないが、彼が注意深く電話番号を知られないようにしていたことから、それは避けたいことだった。
捲り上げられていた服をさり気なく直しながら、とりあえず透さんからスマホを受け取った。
「そ、外で掛けてきますね・・・」
再び体を起こそうと手を付くが、今度は彼の手が優しく背中に回り、ソファーへ座らされる形にされた。
「・・・あの」
「ここで、どうぞ」
腰掛けるソファーの目の前には透さんがいて。
逃げる道は既に絶たれていた。
もしかして、私が沖矢さんに連絡することを読んでここに留めようとしたのだろうか。
そんな醜い疑いまで出てきてしまって。
「・・・・・・」
どうするべきか彼のスマホを握ったまま悩んで。
それでもできる行動は一つしか無かった。
透さんのスマホの電源ボタンに触れ、画面をつける。
何故か既に電話をかける画面が開かれていて。醜い疑いは深まる一方だった。
少し震える指で、ゆっくりと確実に沖矢さんの番号を打っていく。
何度も確認して覚えたから。
間違いはないはずだけど。
出来れば間違っていてほしいなんて思いまで出てきた。
「・・・っ」
まだ指には迷いがあって。
もう道は一つしか残っていないのに。
脆い決意の中、五桁目を打とうとした瞬間、私の鞄から電話を告げる着信音が鳴り響いた。
私も透さんも、思わずそこへ目を向けて。
かかってくるはずのない電話が、暫く主張を続けた。