第4章 気持ち
「え、・・・えっ!?」
ああ、きっとまた真っ赤なんだろうな。これじゃ梓さんがますます誤解する。
「あ、如月さんそろそろ上がる時間ですね!」
確かにそうなのだが。今はそれどころではなくて。
「お疲れ様でした!明日も頑張ってくださいね!」
軽く片付けを済ませた後、スタッフルームに押し込まれるように入った。そのまま暫く梓さんの言葉を何度も何度も頭で繰り返した。
「明日・・・安室さんに、会える・・・」
嬉しかった。単純な気持ちではそう。
どこか浮かれているのは確かで。
「お弁当、作ってこようかな」
なんだか足取りが軽い気がする。単純な女だな、と自分で思いながらロッカーを開ける。
その時、ふと目に入った隣のロッカーに貼ってある安室透の文字。
早く会いたい。
そう思った瞬間、ドクンと1度大きく心臓が跳ねた。途端に体の奥底から何かが溢れるような感覚に陥った。心臓の動きが早くなる。
これは『好き』という感情と違うのか。
早くなる鼓動に呼吸が苦しくなる。
心臓辺りをグッと掴んだ。
「・・・・・・好き・・・?」
零れた言葉に自身を疑った。
これは自覚・・・?
つまり・・・私は安室さんが・・・?
安室さんの・・・ことが・・・?
そう思うと段々と恥ずかしくなり、足の力を失ってペタンとその場に座り込んだ。
1度は気持ちに蓋をして、なかったことにしようとしたけど。会えなかった、話せなかった期間がその封を解いてしまった。
「そっか・・・好きなんだ・・・・・・」
気付いてしまった。
気付いてはいけなかったのかもしれない。
伝えることは恐らくできない。
でもこの気持ちに嘘はなくて。
単純に安室透という人に惹かれてしまっただけで。
苦しかった呼吸を整えるように深呼吸をする。
まだ落ち着かないけれど、いつまでもこうしている訳にもいかず。
とりあえずあまり言うことのきかない体を動かし、急いで帰り支度を済ませた。
家までいつもの倍近く、時間と体力を使ったように思う。
家に着くなり、玄関でへたってしまった。
深く深くため息をついて蹲る。