第34章 言の葉
「・・・愛してます」
突然、自然とその言葉は零れてきて。
彼の質問の答えとはかけ離れているけれど。
少し悲しそうだけど、余裕のありそうだった彼の表情は一変して、目を丸く驚いた表情になって。
彼が本当に私を壊しにきているのであれば、それを私は受け入れよう。
今の私が失って怖いものは、貴方しかいないんだから。
決意だけしかない眼差しで、彼を見つめ返した。
「・・・っ!」
倒れてくるように、急に覆い被さって抱き締められる。
突然密着した体に一瞬息も心臓も止まったように感じて。
「と・・・」
彼の名前を呼んで確認しようとした時、密着する体からとあるものを感じて。
彼の胸の辺りから、確かに感じる鼓動。
それは大きく、そして少し早くて。
それが意味することを考えたとき、同時に自分の鼓動も早くなって。
「すみません。・・・想像以上に可愛らしくて」
抱き締められたままそんなことを言われれば、また鼓動は早く大きくなっていく。
「透さん・・・」
そんな彼がやっぱり愛おしくて。
「・・・愛してます」
抱き締められている彼の耳元に顔を向け、囁くようにもう一度伝えた。
一度吹っ切れてしまえばこんなに簡単に出てしまうものなんだ、と自分でも驚いた。
いらない心配をするより、今は彼の求めることを最優先に考えれば良い。
そう思った。
「・・・誘ったのはひなたさんですからね」
背筋にゾクッと何かが走るような声色で言われて。
誘った覚えはないと伝える間もなく、その口は透さんの口で塞がれてしまった。
「ん、ン・・・ぅ・・・っ」
透さんの舌が絡み合う度、体に電気が走ったように感じる。
沖矢さんとは違う、深い余裕のないキス。余裕がないのはきっと私だけ・・・だろうけど。
やっぱりこのキスが好きで。
一番透さんを感じられる瞬間のような気がして。
そういえば、あの時の沖矢さんの格好をしてきた人物は、キスをしてこなかった。
・・・もしあれが透さんで、あの時キスしていれば・・・透さんだと分かっただろうか。
でも私は彼との深いキスは、この余裕の無いものしか知らなくて。
まだ私の知らない彼が、いるような気がした。