第34章 言の葉
「・・・・・・っ」
口付けていく彼を見ていると余計におかしくなりそうで、蓋をするように瞼を閉じた。
わざとリップ音を立てているのは嫌でも分かる。
それくらい、その音は響きが強くて。
「・・・!?」
腹部から唇を離し、彼の気配も少し遠のいたと思ったら、今度は足に手を這わされた。
滑り込むそれは擽ったさもあるが、同時に僅かな快楽でもあって。
「・・・っ・・・!」
その僅かな快楽の中にある少しの違和感。
というよりは、既視感。
・・・いや、具体的には覚えがあるけど、それは私が思っているものとは違って。
「と、る・・・さん・・・?」
確認するように彼の名前を呼んで。
この手つきを・・・私は知っている気がする。
「言う気になりました?」
彼が名前に反応して、太ももに手は置いたまま視線だけをこちらに向けた。
その笑みは何かを意味していそうで。
ただの考えすぎかもしれないが。
「そ、そうじゃ・・・ないんです、けど」
あの時・・・沖矢さんの格好で押し入ってきた彼と、手付きがよく似ている。
触り方や、手の感覚・・・全くの別人とは思えなくて。
でもそれを透さんに直接確認する訳にはいかない。
もし、違っていたら。
それは彼への冒涜であり、自分を崩壊させることにもなりかねない。
・・・でも、もしそうだとしたら。
「嫌、ですか?」
足に触れていた手が頬に伸びてくる。
そっと触れる彼の冷たい手が心地よくて。
彼に言えないことが多過ぎて。
いつかこれに潰されてしまいそうで。
もう殆ど、潰れかけてはいるけど。
彼の手に自分の手を重ね、優しく握って。
冷たいけれど、温もりはあるそれを感じ取るように目を閉じて。
小さく首を横に降った。
「・・・っ」
少しソファーの沈み方が変わったと感じ取った瞬間、額に柔らかい感触を受けて。
ふわりと感じる彼の香りが、落ち着きのない心臓や気持ちを鎮めるようだった。
「何か不安なことがあれば言ってください。それとも、僕では力になれませんか?」
彼の顔を確認するのに目を開けて。
少し悲しそうな彼の表情は心臓を締め付けた。
あの時の沖矢さんが透さんなら・・・その質問はこの上なく意地悪な質問だ。
彼もまた、私を壊しにきている人物の一人なのかもしれない。