第34章 言の葉
透さんの顔が不意に近付いてくる。
それを感じ、キスされるんだと察して。
「・・・っ」
思わず瞼を閉じてその瞬間を待った。
「・・・!」
数秒後、予想は間違っていなかったけれど、それは少し違った形で成された。
てっきり自分の唇に落とされると思っていたそれは、頬に降りてきて。
リップ音を立てながら口付けられれば、そこだけ熱を帯びたように熱くなっていた。
「ひなたさんが言うまで・・・ですからね」
何が、だろう。
言わなきゃいけないことは分かっているが、それを言うまで何をされるというのだろう。
口付けられた頬にそっと手を置いて彼を見つめた。
透さんは私の視線を受け止めるなり、また笑みを深め今度は反対の頬へ口付けた。
彼の唇が触れる度、心臓は痛い程に跳ね上がって。
「・・・っひゃ・・・!」
その口付けは、段々と耳の方へ移動していって。
耳元でリップ音が響けば、無意識に驚きとも甘い声ともとれる声が漏れた。
「と、透さん・・・っ!」
段々と彼の言っていたことが分かってきた気がする。
であれば、早く言ってしまえば良い事は判断できた、けど。
「言ってくれたら、きちんとして差し上げますよ」
耳元で囁くその声がどこか色っぽく、私の欲望を掻き立てた。
まるで私がそうとしか望んでないような言い方。
間違ってはいないが、生き急いで言えばそれを肯定するようで。
彼に見せた意地は思っていた以上に根深いようだ。
「早く言ってくれないと、僕もどうなるか分かりません」
彼も・・・というのに、少し動揺して。
それは信じて良い言葉なのか、と。
本当であれば嬉しいけれど・・・と脳裏で考えている隙に、服の裾を捲り上げられ腹部が露わになる。
「・・・っ、とおるさ・・・!」
咄嗟に彼の肩を掴み、名前を呼ぶ。
でもそこに、止めてという意味は入っていなくて。
一瞬こちらに視線を向けた透さんは、今度は腹部に何度も場所を変えては唇を落としていく。
唇もそうだが、たまに触れる透さんの柔らかい髪が、もどかしさを増幅させた。