第33章 間違い
「ひなたさんが満足と感じた時が、僕が満足する瞬間です」
そう言われて透さんらしい答えだな、と思って。
透さんらしい・・・、ズルい答えだ。
「私は、透さんと居られればそれだけで満足です」
「では僕も同じです」
売り言葉に買い言葉のような会話。
それでも幸せを感じてしまうのは何故なのか。
言葉通り、彼とキスしなくたって、繋がらなくたって、傍に居られればそれだけで私は満たされる。
時に、醜い欲望がそれ以上を求めることはあるけれど。
「僕とのそれ以上は、いりませんか?」
今日の透さんはとことんズルい。
その言い方だと、沖矢さんが含まれているみたいでどこか引っ掛かりを感じた。
まるでそれ以上のことは沖矢さんで満たしている、と言われているみたいで。
「透さん以外は求めませんが・・・それだけの関係にならないか、少し怖いところはあります」
そんなことは無いと思っているけど。
明確に付き合っていない以上、そうなってしまうことへの恐怖は少なからずあった。
「そんなことになるなら、あの男に嫉妬なんてしませんよ」
・・・嫉妬?
沖矢さんに・・・?
彼が?
・・・まさか。
「透さん・・・沖矢さんに嫉妬してるんですか?」
冗談なのだと思って聞き返した。
どちらかというと、沖矢さんへは嫌悪感の方が強く感じられたから。
「・・・いけませんか?」
少しだけ頭を起こした透さんの目を見ると、それは真剣なもの以外の何物でもなかった。
口角は上がっているのに、笑っているとは言えない絶妙な表情で。
「・・・っ」
それに何故か全身が疼いて。
この身も心も、全て貴方の物なのに。
沖矢さんなんてそういう目で一度も見たことはないのに。
透さんへの、そこはかとない愛おしさが出てきて。
「・・・あの男に、何かされませんでしたか」
甘く感じた時は一瞬で。
ドクン、と大きく心臓が音を立てた。
密着している体から、それが伝わるんじゃないかと不安になるくらい、その音はどんどんと速さと大きさを増していった。
「・・・え・・・、と・・・」
正直に言っても良いのか。
言えばどうなってしまうのか。
今の私にはその答えも、言った後の未来も想像ができなかった。