第33章 間違い

「ひなたさん」

何も言えなくなっている私を呼んで、透さんへの視界を促した。

無言になればなるほど、肯定的な意味になることは分かっているのに。
それでも真実も嘘も口にする勇気が出てこなくて。

「何を、されたんですか」

無言の時間が長すぎて、どうやら肯定と取られてしまったようで。

間違いでは、ない･･･けど。

「お、怒りませんか･･･」

別に彼に怒られることが怖い訳ではない。
寧ろ怒られるだけで済むのなら、とっくに洗いざらい話している。

彼に･･･嫌われてしまうことが一番怖かった。

拒絶されてしまえば、存在意義を見失ってしまいそうで。

「内容によります」

少し鋭くなった目付きに、背筋が凍るような感覚を感じた。

もう既に怒ってはいる。
嫌でもそれは判断できた。

「･･･き、キス･･･だけ･･･」

あの時私を襲ったのは、沖矢さんの姿をしていたけど沖矢さんではなかったから。

「それだけですか？」

全てを知った上で、尋問されているような気分で。

本当はそれだけじゃない。
少しだが、体に触れられたことだってある。

でもそれ以上は、言うことを脳が拒否した。

「それだけ･･･です･･･」

沖矢さんを庇う訳ではないが、これ以上彼の印象を悪くさせてしまうのは危険だと、無意識に判断したのかもしれない。

ただでさえ透さんは、彼が嫌いみたいだから。

沖矢さんは組織について知らないことにしている。
なのにこれ以上彼に探りを入れられると、コナンくんにも飛び火がいかないとも言い切れない。

嘘は吐きたくなかったが、なるべく穏便にも済ませたかった。

「･･･そう、ですか」

透さんの目から覇気が無くなって。

その視線を俯かせた。

なんだろう、この違和感のような感覚。

どこか･･･彼に見捨てられたような。

そんな気持ちになって。

「透･･･さん･･･？」

不安から彼の名前を呼んだ。

本当は全部知っていたんじゃ。
沖矢さんからされたことは、これだけじゃないと。

だからこんな嘘ばかり吐く私に･･･絶望したのでは、と。