第33章 間違い
「ひなたさんはもう少し、我儘を覚えた方がよろしいかと」
それはつまり、どういうことなんだろう。
彼の言う我儘とは何なのか。
「・・・透さんが思っている以上に、我儘だと・・・思いますよ」
それは私が思う我儘。
彼の愛に対しては欲深く、それなのにどこか諦めているような天邪鬼でもある。
「では、もっと我儘になってください」
「・・・っ・・・!」
体同士が更に密着して、口を耳元に近付けられた。
吐息が耳にかかってもどかしい。
彼の声が媚薬のように体を疼かせた。
その瞬間、あの時・・・沖矢さんのフリをして私を襲った男が浮かぶようで。
でも、そのことを思い出しても何故か怖いとは思わなかった。
「透・・・さん・・・」
耐え難い程にもどかしい。
透さんの香りや熱を感じる度、欲求は激しさを増していく。
「今、どうしてほしいですか?」
彼が喋る度、体がピクピクと震えて。
思わず彼の背中に手を回してキツく抱きしめ、肩に顔を埋めた。
「意地悪は・・・嫌です・・・」
「意地悪ではありませんよ。貴女が思うままに言えば良いのですから」
それが意地悪なのに。
口に出すことが恥ずかしいのに、それをわざわざ言わせるなんて意地悪以外の何物でもない。
「・・・キス、してください」
それが精一杯。
もっと心から透さんを求めてはいるけど、口に出せる言葉はこれが私の限界だった。
か細いながらも絞り出したその言葉を聞いた透さんは、ゆっくりと少しだけ体を離した。
その顔には少しだけ笑みが戻っていて。
「仰せのままに」
そう一言告げるなり、優しく唇を触れ合わせた。
いつもなら舌が入ってくるのに、本当に優しい、啄むようなキスで。
どこか透さんのそれを待っている自分が、心底恥ずかしい。
それでも、そんなことは言えなくて。
「・・・ご不満ですか?」
誰が見ても悪い笑みだと分かるその表情は、私の欲望を逆撫でした。
「透さんは・・・満足ですか?」
少し憂いを帯びたように言えば、彼の笑顔は少し固くなって。
そこに少しだけ優越感のようなものを感じた。