第33章 間違い
ソファーに腰掛け、改めて何を話すべきか考えた。
沖矢さんのことは勿論のことだが・・・ポアロや、探偵助手としての今後もそうだ。
今のところ全部曖昧なまま。
せっかく透さんが用意してくれた居場所なのに。
自分からそれを失おうとしている。
引越し先は、恐らく教えない方が良いんだろうな。透さんにはすぐバレてしまいそうだけど。
「お待たせしました」
「あ・・・ありがとうございます」
色違いのマグカップを運びながら透さんがやってきて。
考え事の最中で気が逸れていた為、少しだけ驚いて肩をビクつかせてしまった。
マグカップをテーブルに置き、いつものように隣へ腰掛けると、沈みを変えるソファーがまた鼓動を早めて。
「では、お話を始めましょうか」
彼のその合図を聞いた瞬間、全身に力が入った。
何から話せば良いのか。
どこから話せば良いのか。
一瞬しか考えていないようだったけど、その時間は数分経っていたかもしれない。
「ひなたさん」
痺れを切らしたのか、それでも優しい透さんの声が耳に届いた。
でも、何の罪悪感かは分からないが、そういった類の気持ちから顔を上げることはできなくて。
「・・・ひなたさん」
彼が名前を呼ぶ度、罪悪感が増えていく。
本当は貴方が好きだと、心から愛しているのだと伝えたいのに。
裏切るようなことをしてしまって申し訳ないと、謝りたいのに。
嘘ばかりついているこの私を・・・
「・・・ん、う・・・っ」
そんなことばかり考え、俯いていた私の顔を片手ですくい上げ、そのまま唇を落とされて。
さっき車内でされた時とは違う緊張感が体を疼かせた。
「ん、は・・・ぁっ、んん・・・」
手を後ろ頭に滑らせ、そのままソファーに体を倒された。
覆い被さるように透さんの体が密着して、更に苦しさが増していく。
「・・・んん、ぅ・・・はっ・・・ぁ」
剥がされた唇は貪欲にもっと、と訴えて。
こんな時でも透さんを求めてしまう体が恥らしい。
「お話・・・聞かせてもらえますか」
透さんの瞳が、真っ直ぐ私を見つめて離さない。
いつもと同じ・・・あの綺麗な澄んだ瞳で。