第33章 間違い
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「車を置いてきますので、ひなたさんはここでどうぞ」
「ありがとうございます」
事務所近くで降ろしてもらい、足早に二階へと進んでいった。
鍵を開け、扉を開き、電気をつける。
暖房のスイッチを入れて、冷えている部屋を暖めながら荷物をソファーに置いた。
無事に事は終えたはずなのに、まだ大きな課題が残っていて。
寧ろ透さんの作戦より、こっちを話すことの方が何倍も難しいのでは、と考えて。
小さくため息を吐きながら何か手を動かすことを探し、部屋を見回した。
その時、部屋の角に真新しい小さめのタンスが目に入って。
こんなの、前に来たとき合っただろうか・・・と思いながらそれに近付き、一番上の引き出しを引いた。
「これ・・・」
そこには見覚えのある部屋着が入っていて。
以前ここに来た時、透さんが出してくれたあの部屋着。
そして、私が置いていった洋服も綺麗に畳まれてそこに収まっていた。
「収納場所が無かったので、取り急ぎそちらに」
「わ・・・!」
突然背後で声がしたことに驚いて、勢いよく振り返った。いつの間にか部屋に入ってきた透さんが、こちらに近付いていて。
「そ、なんですか・・・」
段々と透さんのテリトリーに踏み込んでいるようで、少し申し訳なくなって。
「・・・すみません」
本当は嬉しかった。ありがとう、とお礼を伝えたかったのに。何故か出てきたのは謝罪の言葉だった。
「ひなたさんだから、そうしたんです」
彼のその優しさは、バーボンだからといえば納得はできるけど。
そうは思いたくないのは、私の我儘なんだろうな。
「・・・っ」
何か言わなきゃ。
そう思えば思うほど、言葉が詰まった。
何を言えば良いのか分からなくて、ただ静かに開けた引き出しを閉めた。
「・・・ひなたさん?」
「すみません、ちょっと御手洗借りますね」
無理矢理笑顔を作って、そう言いながら彼から逃げた。
部屋の奥にあるそこへ逃げ込むように入るなり鍵をかけ、扉へもたれかかって天井を見上げた。
何やってるんだろう。
今度はそんな他人事のような気持ちでいっぱいになって。
色々あり過ぎて気持ちも頭も何もかも追いついていなくて、混乱しているのかもしれない。
あの毎日平穏だった日々が、恋しくなっていた。