第32章 探偵と
「あの・・・赤井秀一に聞きたいことって、やっぱり教えてくれないんですか・・・?」
別に見返りを求めている訳じゃないが、それくらいは教えてほしいと訴えるように、透さんに尋ねる。
透さんは、ほんの少しだけ驚いたような表情で小さくこちらに視線を向け、またすぐに視線を戻した。
「・・・本田さんについて何か知っているんじゃないかと思いまして」
確かに、赤井秀一が生きていればその事について尋ねることはできるだろうけど。
・・・でも兄の死について、透さんは既に知っているのでは・・・?
これは私への適当な嘘なのか、本当に兄の死については知らないのか・・・。
何より、透さんがそう言ってくるということは、まだ私が彼をバーボンだとは知らない嘘を、吐き通せているということか。
「その為に・・・わざわざ・・・?」
「ひなたさんの為ですから」
そういう彼の横顔を見つめながら、どこまでが本当の言葉なんだろうと考えては、何故疑う気持ちが出てくるのかと自分を責めた。
言葉はどうであれ、兄の依頼を忘れていないことを嬉しく思わなければいけないところだと思うのに。
「僕からのお願いはこれで終わりですが・・・家まで送りましょうか?」
断ることが分かっていての質問。
寧ろ、透さんなりの意地悪かもしれない。
家の場所を明確に聞かない辺り、沖矢さんの住む工藤邸は分かっているのだという遠回しな圧力。
「・・・ちょっと、お話しませんか」
いずれ沖矢さんについてはきちんと話さなきゃいけないと思っていたから。
沖矢さんが、透さんにバレたと勘づいているということは、あの家にいることは透さんに話しても良いんだと判断した。
「構いませんよ、事務所で良いですか?」
「はい。大丈夫、です」
それでもどこか不安はあって。
さっきコナンくんに会ってしまった動揺を引きずっているのか、心のどこかに黒い霧がかかっているようだった。
・・・今、私の目の前にいる彼は、安室透なんだろうか。それとも、バーボンなんだろうか。
どっちでも透さんということに変わりはないのに。