第32章 探偵と
「その写真の男性、先日町でお見かけしたように思います」
「どこで・・・!?」
FBIの女性は私の言葉を聞いて、突然肩に掴みかかってきた。
その目はどこか鬼気迫るものを感じて。
透さんはこの後からの彼女の言葉が重要だと言っていたけど。
「す、すみません・・・どこだったかまでは・・・」
聞かれたら、そうはぐらかせと透さんから言われていた。実際、私はその彼を見ていないのだから。
・・・恐らく。
そして、こう言え・・・とも。
「でも・・・私が見たのは頬に火傷の後がありましたけど・・・」
「火傷・・・!?」
FBIの女性はそれに対して異常に驚いた様子で。
この言葉は透さんから言えと言われた時、一番疑問に思った言葉だった。
恐らく私が見たと思う赤井秀一は、頬にそんな傷は無かった。
確かに頭を撃たれた後、車ごと焼かれたと透さんの資料には書いてあったけど・・・。
「見かけたの、どこかの缶コーヒーの自販機の前とかじゃない?」
「缶コーヒー・・・お好きなんですか?」
そんな情報は初耳で。
正直、情報としてはそこまで意味を成さないようには感じたが。
「ええ・・・これから奴らが病院を襲撃しようとした時も・・・」
奴ら・・・病院、襲撃・・・。
それを聞いて、私の中で何かが繋がるようだった。
恐らく彼女の言う奴らとは、組織の人間・・・そして、病院はきっと杯戸中央病院。
「その時も缶コーヒーを飲んでいて・・・手を滑らせて・・・」
「そ、相当お疲れだったんですね・・・」
ということは、時期的にその事件の後に殺されたということなのか。
・・・いや、死んでいるかどうかは分からないけど。
「いえ、その彼と火傷の彼は別人で・・・っ」
別人・・・?
どういうこと、彼女はその火傷の彼のことを知っているということ・・・?
そこまで考えて、透さんの言葉がやっと繋がった。
火傷の彼というのが透さんの変装だったんだ、と。関係者の周りを彷徨いたと言っていたし、恐らく彼女達の周りも彷徨いたのだろう。
恐らくそれが彼女にバレているから、透さんは直接彼女に探りを入れなかったということか。