第32章 探偵と
これから行うことにもそうだが、久しぶりに乗る透さんの車は妙に緊張感があって。
あの時のことを何も言わない透さんにも、不安を感じるが。
「緊張されてますか?」
「え・・・?そ・・・そう、ですね・・・」
急に声をかけられ、俯いていた視線を彼へと上げた。
その綺麗な横顔に心臓が大きく高なったのを感じる。
やっぱり彼が好きなんだと、再度自覚した瞬間で。
「この作戦に失敗はありませんから、そこまで気負わなくても大丈夫ですよ」
作戦に失敗は、ない・・・?
どういうことだろう、私が下手なことを言えば失敗だってありえそうな作戦だけど・・・。
透さんの言葉に引っ掛かりを覚えながらも、その後は無言で車を走らされた。
暫く走った後、着いたのは静かな人通りの少ない並木道で。
「この角を曲がった少し先に、FBIの女性がいます。そこで、伝えた通りにお願いします」
「・・・分かり、ました」
なぜここにその女性がいることが分かっているかは、敢えて尋ねなかった。
尋ねてはいけないような気もしたし、恐らく教えてはくれないだろうから。
小さく一呼吸置き、意を決して内側のドアハンドルに手をかけた。
「ひなたさん」
ドアを開けかけたその時、透さんに呼び止められて。
なんだろうと振り向いた瞬間、両手で顔を掴まれ軽く引き寄せられたと思ったら、次の瞬間には唇を塞がれていた。
「ん、んぅ・・・っ」
顔を掴む透さんの手の上に自身の手を重ねる。
やっぱりそれは少しだけ冷たくて。
口内へ滑り込んでくる舌は、いつものように私の舌を絡めとっていく。
「っは、・・・んぁ・・・ん・・・」
既に透さんに注意された呼吸なんてものにまで、頭は回らなくなっていて。
濃厚過ぎるキスに、段々と意識が朦朧とするようだった。
「んぅ・・・ぁ、・・・っはぁ・・・」
ゆっくり離れた唇からは、触れていた証が小さく透さんとの唇と繋いだ。
少しだけ上がってしまった息を整えながら、彼の顔を見るのがなんだか恥ずかしくて、視線は落としたままにした。
「上手く出来るようにおまじないです」
逆に動揺して失敗してしまいそうだ、と思いながらも、この甘い時間がずっと続けば良いのに、なんて貪欲な思いまで生まれてしまった。