第32章 探偵と
ーーー
「大丈夫そうですか?」
作戦の内容を聞き終え、最後にそう透さんに問われた。
大丈夫かと言われたらそうではないが、今の私に首を横に振る勇気や資格はない。
「・・・頑張ります」
相手の女性がどんな人物かは想像ができないが、彼の為なら動くしかない。
「では、早速ですが行きましょうか。近くに車を回してきますので、戸締りをお願いします」
「分かりました」
先に部屋を後にした彼の背中を見送り、指示通り事務所の施錠をして、車をつけるであろう場所で待機した。
FBIの女性・・・名前はジョディ・スターリング。
彼女と赤井秀一の関係は同じFBIということは分かったけど、透さんが直接彼女へ探りを入れないことは疑問で。
彼女にも透さんがバーボンだと知られているということだろうか。
それより、さっき透さんから聞いた作戦の中で、気になる言葉がいくつかある。
それについて透さんに軽く尋ねてはみたが、彼から返ってくる言葉は「いずれ分かる」というものばかりだった。
上手くいく未来は想像ができなかったが、いつまでも不安を感じていても仕方がない。
深く深呼吸を繰り返していると、目の前に見覚えのある白いスポーツカーが止まった。
「お待たせしました」
助手席側のウィンドウを下げ、身を乗り出すように透さんが顔を覗かせた。
少し緊張しながらドアハンドルに手をかけ、車内に乗り込んで。
「これを、身につけていただけますか」
シートベルトを締めるなり、渡されたのは少し大きめのパールがついたイヤリング。
「盗聴器が仕込んであります」
彼の手からそれを受け取った瞬間そう言われて。
改めてそのイヤリングを見直すが、とても盗聴器が仕込まれているとは思えないサイズで。
こんな時なのに、久しぶりにバラしたい衝動に駆られた。
「近くで僕も聞いていますので、安心してください」
確かに安心はあるが、下手なことを言えないことに逆に緊張感も高まって。
透さんが車を走らせてから、言われた通りそれを耳につけた。
普段こういったものは身に付けないから、何だか妙な違和感を感じる。ましてや普通のイヤリングではないのだから。