第32章 探偵と
「おはようございます」
日曜日の朝。
いつも通りの、沖矢さんとの挨拶。
「おはようございます、ひなたさん」
彼が私の名前を呼ぶのも、いつの間にか当たり前になっていて。少しここを離れるのが寂しいとすら思い始めていた。
「引越し先は見つかりそうですか」
ここ数日はネットを中心に近くの物件を探していた。ただ、中々良い所は見つからなくて。
「・・・やっぱり今の家に戻ることはダメなんですよね」
「出来ることなら」
朝食を準備しながら沖矢さんはそう答えて。
確かに、透さんにバレている以上、組織の人間が目を光らせていてもおかしくはない。
私は構わないが、コナンくんに迷惑がかかった時がどうしようもない。それだけは避けたいから。
「見つからないようでしたら、ここに住んでも構いませんよ。有希子さんから許可は頂いていますので」
色んな理由からそれだけはなるべく避けたいが、最悪それも有り得なくはないと考えて。
「そうならないように頑張ります」
自分の為にも、透さんの為にも。
「それと、今日あったことはなるべくご報告ください」
例の件について、沖矢さんにはまだ何も伝えていない。話せることがあるかどうかは不明だが、彼等にだって知る権利くらいはある。
「・・・分かりました」
協力状態である以上、何の為に動くかは話せなくても、どう動いたかぐらいは報告できるかもしれない。
私にその行動の意味ができるかどうかは分からないが。
それよりも気がかりなのは。
「不安そうですね」
私の心の内を見透かしたような口振りに、コーヒーの準備をする手を止め、沖矢さんに視線を向けた。
・・・そんな顔になっていただろうか。
「まあ・・・色々あったので」
普段沖矢さんへは口にしない弱い部分が、思わず漏れた。それくらい、透さんと会うのが少し怖くて。
何を言えば良いのか、どんな顔をしたら良いのか。
あのメールを貰ってからというもの、そんな不安ばかりが頭の中を駆け巡った。
「大丈夫ですよ、何かあれば僕がいますから」
この不安の殆どは貴方のせいなんですけど、と心の中で言い返しては、コーヒーの準備をする手を再び動かした。