第31章 重なる
「夕飯、用意しているので食べませんか」
顎を掴まれていた手は離され、私の答えは聞かずに台所へと向かってしまった。
質問というよりは提案だったのだろうな、と脳裏で考えながら、この生活に慣れてしまっていることが、なんだかいたたまれない気持ちになった。
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夕飯や入浴を済ませ、借りているゲストルームのベッドへ腰掛けた。
あの透さんのメールにはまだ返信をしていない。
『分かりました』と一言送るで良いのに、それができなくて。
何に迷っているのだろう。
自分でもそれは分からない。
未送信のそのメール画面を開いたまま、何分も過ぎた。
赤井秀一に聞きたいことって・・・なんだろう。
そして、一度考えたことはあったけど、彼はどんな人だったんだろう。透さんと仲が悪かったようだし、相当癖の強い人なんだろうか。
ミステリートレインで会ったあの彼が赤井秀一なのだとしたら、ちょっと怖い人だな、なんて思って。
もし仮に赤井秀一が生きていたとしたら・・・透さんは彼をどうするつもりなんだろう。
まさか・・・。
と、考えて一番に出てくるのは最悪な結果。
だけど、それだけは絶対にさせない。
ミステリートレインの彼がそうなら、私は沖矢さんやコナンくん達の味方ということになる。
組織に潜入していたのだから、そこに間違いはないと思うが。
だったら尚更、そんな結果にはさせない。
透さんが意地でもそうするなら、私はどんな手を使ってでもそれを止めてみせる。
そう思い直せば、彼へのメールの迷いなんて消えてしまって。
送れなかったメールの送信画面を開き直して、今度は迷いなく送信ボタンを押した。
次の日曜日・・・私は彼にどんな指示を受けるのだろう。
どういうものであれ、殺せという命令以外には従うつもりでいるけれど。透さんがそんな指示をするはずないと思っているから。
それよりも、彼と普通通り話をすることが出来るだろうか。
最後にちゃんと話したときは、気まずい別れの言葉になってしまったから。
バレてしまっているなら、この際沖矢さんのことについては、ちゃんと話そう。
彼への嘘を一つでも無くしてしまいたい。そう思いながら布団へと潜り込んだ。