第31章 重なる
「良いお返事です」
子ども扱いをするように言われれば、またいつものように小さな怒りが出てきて。
でもそれは逆に安心でもあった。
いつもの彼だという確信ができたようで。
「とりあえず、今回のことはこちらでも調べてみますので、難しいでしょうが、貴女は忘れることを最優先に考えてください」
それはここへ尋ねてきた、もう一人の沖矢さんのこと。
知らない誰かが、わざわざ沖矢さんのフリをして入ってきたということは、少なからず沖矢さんのことを知っている人物で。
・・・そう思って改めて考え直してみると、私の中で思い当たる人物はただ一人だけだった。
安室・・・透。
でももしその仮説があっているとしたら、尚更理解ができない。
何故沖矢さんの格好をして、この家に入ってくる必要があったのか。そして何故私を襲ったのか。
目的は別にあったのかもしれないが。
ただ、あの時感じた透さんの声や仕草が、彼本人の物だとしたら、と思うと納得のいく部分も多かった。
・・・これももしかしたら、自分の中でのそうであってほしいという希望なのかもしれないけど。
「くれぐれも、この家に上がり込んだその人間を僕だとは思われませんように」
顎をクイッと持ち上げられ、詰め寄られた。
確かに入ってきたのは沖矢さんじゃないけど・・・。
近くなった彼の顔に、透さんの声が聞こえるようで。
変な錯覚に思わず沖矢さんから視線を逸らした。
「・・・怖いですか?」
そうでは、ない。
ただ、不安になっているのは事実。
あの時の沖矢さんが・・・透さんでも、そうでなくても、私の中では最悪な出来事だから。
「沖矢さんは・・・怖くないです」
その言い方だと、透さんは怖い、と言っているみたいで。半分言葉通りだけど。
「大丈夫、彼も悪い人間ではありませんから」
私の言い方が引っかかったのか、珍しく透さんへのフォローが入って。
悪い人間ではない・・・それは人としてという意味なんだろうけど、どうして沖矢さんがそんな知ったような口を聞くのだろう。
どっちみち、透さんが悪い人間でないことは最初から分かっていたけど。