第31章 重なる
呼吸が荒くなる。
全身が、震えてきて。
さっきの人物が沖矢昴でないとしたら・・・私は誰に透さんの姿を重ねていたの。
「・・・顔色が悪いですよ」
震える体を抑えるように、両腕をそれぞれ掴んで自我を保った。
沖矢さんの言葉は聞こえているけど理解できなくて。何も、脳で処理し切れなかった。
「ひなたさん」
「や・・・っ!!」
肩に置かれた沖矢さんの手を、思わず振り払った。
沖矢さん自身も段々と怖く感じてくる。
目の前にいるのが誰なのかすら理解しにくくなっていて。
「落ち着いてください」
彼の手が、こちらへ伸びてくる。
それがただただ怖くて、思わず目を固く瞑った。
「・・・っ」
震える体を、彼に強く抱き締められた。
苦しくなるくらい、それは強くて。
それでも恐怖はあったものの、段々と呼吸が落ち着いてきて。
同時に震えも落ち着きを見せ始めた。
「大丈夫ですか」
抱き締められたまま沖矢さんに尋ねられ、小さく頷いて返事を返した。
「とりあえず、何があったか教えて頂けますか」
私の肩を掴んで体を離し、真剣な顔でそう尋ねられた。
彼とは正反対な情けない顔のまま、もう一度小さく頷いてみせた。
それを確認した沖矢さんは、私の隣へ腰掛けて。
「質問をしますので答えてください」
少しは落ち着いたものの、まだ脳内は混乱が続いている中、彼の言葉は続いた。
「誰か、尋ねてきましたね?」
「・・・はい」
「それは誰ですか?」
「沖矢・・・さん」
訳が分からないことを言っているのは重々承知だ。でもこれが事実なのだから仕方がない。
ほんの少しの間があったが、すぐに沖矢さんは質問を続けた。
「彼と何か話をしましたか」
話・・・という話はしていない。
帰って来たと思ったら、もう彼に襲われてしまっていたから。
沖矢さんの問いに対しては、首を横に振った。
「では、何をなさっていたのですか」
それは必ずくる質問なのに。
また体が小さく震え始めて。
思い出したくはないけど、話すには嫌でも思い出さなくてはいけなくて。