第1章 出会い
「おかえり、コナンくん」
「あれ、お客さん?」
コナンくんと呼ばれた少年は、好奇心からかパタパタと足音をたてながら私の方へ向かってきて。
子どもは無邪気で可愛い。
少なからず、その時の私はそう思っていた。
「初めまして。如月ひなたです」
軽く会釈をしながら小さく笑みを浮かべ、少年に挨拶をした。
・・・ちゃんと笑えただろうか。
少年は、背負っていた鞄を私の向かいのソファーへ置き、その隣へ腰掛けた。
宿題でも始めるのかと見つめていると、蘭さんがお茶を運んできて目の前のテーブルに置いて。
「すみません、私これから出掛けないといけなくて。そろそろ父も戻ると思うんですが・・・ここで待たれますか?」
そろそろがあと何分か分からない以上、長くここにいては迷惑になりそうな気がする。
それなら、さっき見かけた下の階の喫茶店で時間を潰そうと考えた。
「毛利さんが戻られるまで、時間を潰してきます。下の喫茶店なら、戻られるところも分かると思いますし」
「そうですか、せっかく来てくださったのに手間をとらせてすみません」
「とんでもないです、ではまた改めて」
そこは仕事だから仕方ない。
私は必要最低限のものだけが入った小さなバッグを持って探偵事務所を後にした。
少し緊張も和らいだ気がする。
蘭さんの人柄がそうさせたのか、はたまた気が抜けてしまったのか。
とりあえず下の階のポアロへ向かおうと階段を降りる最中、背後から突然呼び止められて。
「如月さん!」
振り向くと、さっきの少年がいて。
確か名前は、コナンくん。
忘れ物でもしただろうか、と振り向いたまま固まっていると、コナンくんが階段を降りて近付いてきた。
「ねえ、僕もついて行っていい?」
笑顔で見上げながら問いかけてきた。
何故?という疑問は浮かんできたが、彼の笑顔が本能的に駄目と言わせなかった。
「構わないよ」
「ありがとう、如月さん」
残りの階段を降り右側を向くと、窓ガラスに書かれた喫茶ポアロの文字が目に入って。
ガラス越しに店内を見ると、昼時を過ぎていることもあり、お客さんは疎らだった。
コナンくんは慣れた様子で足早にポアロに入っていって。
私もそれを追い掛ける形で店内へ足を運んだ。