第30章 壊して※
「ひなたさん・・・っ」
少しだけ苦しそうな声で呼ばれれば、私へ更に快楽を与えるには十分過ぎて。
「ん、あぁ・・・っ、あ・・・もっ・・・ぁあ・・・っ!」
いい所は突かれないけど、それでも溺れるのに必要なだけの快楽はある。
それと同時に苦しさも当然あるが、そんなものは気にもならなくて。
息絶えだえに絶頂が目の前にあることを伝えた。
「・・・っ、イってください」
彼の声で心拍が上がる。
ただ快楽だけを求めて、よがって。
醜い欲望をさらけ出して。
甘い声を吐くだけの動物になって。
「・・・んっあ、ぁああぁああ・・・っ!!」
彼をキツく抱き締めながら、絶頂に達した。
一瞬、何もかもどうでもよくなる感覚に落ちて。
段々と平常な呼吸を取り戻す。
彼を抱き締めている腕の力は相変わらず弱まらなくて。
弱めるのが怖かったとも言える。
彼の顔を見るのが怖くかった。
沖矢さんだと認識することが嫌で。
彼の言葉通り、透さんだと思えている今なら何事も無かったように終わらせられると思ったから。
「・・・・・・」
それでも、どうして良いのかは分からなくて。
もう一度腕に力を込め直した。
「・・・大丈夫ですか」
聞こえてきたのは透さんの声ではなく、沖矢さんの声で。
やっぱりあれは幻聴だったんだ。
納得と共にくる罪悪感は、複雑な感情に拍車をかけた。
ゆっくりと体を離し、お互いの顔を確認し合った。目の前にいるのはどう見ても沖矢さんだ。
私は、彼を求めてしまったんだ。
「痛くはありませんでしたか」
どうしてそんな優しい言葉をかけるの。
こんなことをしておきながら。
私も止めきれなかったのは事実だけど、それ以上に出てくるのは色んなことに対しての疑問や文句ばかり。
「そんな顔、しないでください」
だったら最初からこんなことしなければ良いのに。
心の中では言い返せても、透さんを重ねてしまった自分にも罪があるような気がして言えなかった。
堪えきれず、涙を流して。
それを優しく沖矢さんが指で拭いとる。
「沖矢さんなんて・・・嫌いです・・・っ」
最大限の本音だけは、迷いなく吐けた。