第29章 尋ね人
「貴女が心から拒めば、いつでもやめますよ」
・・・一体、彼はどうしてしまったのだろう。
この短い時間で、彼に何があったのか。
そもそも、今私が心から拒んでいないみたいに言わないでほしい。
なんにせよ、今この状況は本当にまずい。
会話をやめてしまえば確実に彼の手に落ちてしまう。
それだけは・・・絶対に避けたい。
「本当にやめてください・・・っ、透さんじゃないと・・・嫌なんです・・・!」
精一杯の抵抗、のつもり。
情で訴えても彼に届くかは分からないが、今は手当たり次第に試していく他ないと考えて。
「それを崩せたら・・・僕の元へ来るのですか」
そういう沖矢さんの声は何故か悲しそうで。
なんで、貴方がそんな声で言うの。
情で訴えたつもりが、逆に彼の情に釣られたようで。
思わず彼に目を向けるが、その顔には笑顔の欠片もなくて。
「・・・言ったはずです、私には透さんしか見えていません」
それでも、自分を保つように・・・力強く彼にそう告げて。
ただ真っ直ぐ、彼の目を見た。
「・・・そうですか」
「・・・っ」
安心したような彼の小さな笑顔。
それに胸がチクッと痛んだ気がして。
どうしてこんなに、悲しくなってしまうの。
どうして一瞬、彼が愛おしいと思ってしまったのだろう。
自分を正し、保つ為に吐いた言葉が、何故か自分を壊していく。
「でも、今は純粋に貴女を頂きたいので」
「え・・・っ、ちょ・・・!」
やっぱり話を聞いてくれそうもない。
止められていた手が服の裾からゆっくり忍び込んできて。思わず彼の手を掴むが、勿論止められるはずもない。
それでも抵抗を示していないと、理性が保てない。そんな風にされてしまったのは透さんなのに。
何故、目の前にいるのは彼じゃないんだろう。
「いい声で、鳴いてください」
そう煽られたと思えば、彼の手は膨らみに添えられていて。
嫌だ。
主張したい気持ちはそうなのに。
もっと。
どこか彼を求める自分がいる。
彼を拒み切れない自分がいる。
何度もリープする思考が余計に自分を壊していって。