第4章 気持ち
「車を回してきます。この辺りで待っていてください」
「え?あ、分かりました」
車?遠くへ行くのだろうか。そもそも何をしに行くのか。全く行動が知らされない状況に疑問ばかり増える。
「お待たせしました、どうぞ」
数分、悶々と考えている間に安室さんはあっという間に真っ白なスポーツカーと共に現れた。運転席とは反対側の窓を開け、乗るように指示される。
「失礼します」
何度乗っても緊張する。車というこの個室感。どこを見て良いのか分からなくてチラリとハンドル辺りを見る。
ハンドルを握る安室さんの手や腕が男らしく思えて、妙な色気すら感じる。
「どうかされました?」
「い、いえ!なんでも・・・!」
まじまじと見過ぎてしまったか。慌てて外へと視線を逸らす。
安室さんは暫く無言のまま車を走らせた。施設を出てからここへ住んでいるが、出掛けることが少なかったので都内の地理にはあまり詳しくない。
ただひたすらに外の景色を眺め続けた。
「・・・お兄さんのことですが」
ふと安室さんが口にする。
「何か分かったんですか・・・!?」
外に向けていた視線を安室さんへ勢いよく戻す。安室さんは真っ直ぐ前だけを見つめ、真剣な横顔を見せた。
「いえ。色々調べてはいますが、まだ時間がかかりそうです。もう少しお時間頂いても大丈夫でしょうか」
期待していた返事ではなかったが、まだ依頼して1週間も経っていない。どちらかというと当たり前の返答だった。
「そう、ですか・・・。分かりました、引き続きよろしくお願いします」
少し気が抜けてしまった。勝手に期待したのは自分だが、残念に思ったのもまた事実で。
自然と目線が足元へと落ちる。同時にスカートがシワになってしまいそうなほど強く握り締めた。
「大丈夫です。必ず僕が答えを見つけますから」
スカートを硬く握り締めていた手の上に、安室さんの左手が重なる。驚きと緊張で心拍が早まる。それでも大きく感じるのは安心感。
次第に力が入り過ぎていた手の力がゆっくりと抜けていく。
「・・・すみません」
「どうして謝るんですか」
どうしてだろう。よく分からないが気付いたら謝っていた。
しっかりしなくては。今は仕事中だ。
「そろそろ着きますよ」
数十分走った車は、1件の家の前で止まった。