第4章 気持ち
次の日、安室さんの事務所へ向かい鍵を開けようとすると
「あれ・・・開いてる?」
少しだけ開いているドア。中からは微かに光が漏れている。
確認するようにゆっくりドアを開き、中を覗き込むと安室さんが何か作業をしていた。机や床には大量の資料が散らばっている。
「あ、おはようございます如月さん」
「おはようございます」
指定されていた時間三十分前には来ていたはず、とスマホで時間を確認するが、やはり間違っていない様子で。
「ちょっと仕事前に整理しておこうと思いまして」
指さす方向には大量の資料。今日はこれをまとめるのだろうか。
「手伝います」
持っていたカバンをソファーに置き、ブラウスの袖を捲る。
「すみません、助かります」
昨日までのことはなるべく考えない。そう決意して今日は家を出た。なるべく自然に、平常心で、と言い聞かせて。とにかく仕事に集中することにした。
「これはここで良いですか?」
「はい、お願いします」
一つ一つ確認しながら整理していく。よくもまあここまで集めたものだなあ、なんて思いながら。
一通り片付け終え、先程まで散らかっていた事務所のスッキリした様子を見渡した。
「ありがとうございます、本当に助かりました」
「いえ、これも助手の仕事です」
寧ろ助手の仕事なのでは、ということには言い終えた時に気づいた。
「それで・・・今日は何をしたらよろしいですか?」
恐らく先程整理し直した資料のどれかをまとめるんだろうけど。
「今日は僕に着いてきてもらっても良いですか?」
返ってきた安室さんの返答は予想外のもので。
「どこに・・・ですか?」
「さあ、どこでしょう」
今日の安室さんの笑顔は黒く見える。
「あと、今後はスーツじゃなくて私服で構いませんからね」
確かにスーツという指定はなかったが、なんとなくスーツで出勤していた。
「分かりました。次回からそうさせていただきます」
と言っても私服の方が逆に困ったりする。また買い足しておかないと、と心の中にメモを残した。
「さて、早速ですけど出掛けましょうか」
安室さんは腕時計を確認しながら事務所のドアを開け、レディーファーストと言いたげに私を外へ促した。
私は慌てて置いていたバッグを持って足早に外へ向かった。