第29章 尋ね人
食事を済ませ、いつもの部屋のソファーに腰掛ける。いつの間にかここが私の定位置になっていた。
向かい側にはいつも沖矢さんがいて。
一人ぼっちのこの部屋は妙に広く感じる。
・・・沖矢さんが一人で住んでいた頃は、こんな気分だったんだろうか。そう思うと少し寂しさが感じられて。
沖矢さんが戻ってくるまで早くても後三時間くらいだろうか。
彼の帰りを無意識に待っているような考えになったことに少し動揺しつつも、未だ連絡のない透さんのスマホを服越しに握った。
「・・・!」
その瞬間、突然家のインターホンが部屋に響いた。
宅急便だろうか、とモニターの前へと移動しそれを確認するが、そこに映っていたのはまさかの沖矢さんだった。
まだお昼過ぎだが、用事は終わったのだろうか。それより、何故インターホンを鳴らしたのだろう。勝手に入ってくれば良いのに。
色々疑問は出てきたが、咄嗟の判断で受話器を手にした。
「はい」
『沖矢です。鍵を忘れたので開けて頂けませんか』
「・・・分かりました」
沖矢さんでも忘れ物するんだ、と彼を小馬鹿にしたようなことを考えては、足早に玄関に向かった。
玄関の鍵を開けて扉を開くと、モニターで見たままの彼がそこに立っていて。
「お手間取らせてすみません」
「・・・いえ、別に」
何か、違和感。
明確には言えないが、彼の纏う空気がいつもと違う感じがして。
それ以上に、何か・・・。
「お昼は食べられましたか」
「え?・・・ええ、済ませました・・・」
喋ると尚更感じる。
いつもの沖矢さん、のはずなのに。
どこか、怖い。
「少し時間が空いたので、休憩してからもう一度出掛けます」
「・・・ご勝手にどうぞ」
・・・そうだ、笑顔だ。
いつものあの笑顔が少ない。
だから少し怖い印象として写っているのだろうか。
そんな違和感を抱えたまま、さっきまでいた部屋に戻って。
「紅茶でも入れましょうか」
彼の様子を伺う為に、そんなことを言ってみて。本当に彼に入れたかった訳ではないけど。
「それも良いですが、もっと良いモノを頂いてもよろしいですか」
「・・・?なん・・・、っ・・・!」
後ろをついてきていた彼にその言葉の中身を尋ねようと振り返った瞬間、ソファーへ突き落とすように体を押された。