第29章 尋ね人
沖矢さんにとって、透さんと私が仲違いすることはメリットなんだろうか。
でも、彼らの協力者になった理由は『安室透に一番近い人物』だったからだ。
それが無くなってしまえば、私は彼らの協力者としての立場を失いそうな気もするけど。
逆にこれ以上関わらせない為の作戦・・・とか。
透さんがバーボンと分かってからは、コナンくんも必要以上に透さんと接触することを嫌っているようだし。
・・・まあ、何をされても何を言われても手を引くつもりはないが。
沖矢さんなら、隠し事はあれど嘘はつかず一緒にいられるのに。
だからと言って彼に寄り添うつもりなんてこれっぽっちもない。
どうにも彼の言葉は本気に受け取れなくて。
彼自身の言葉ではない気がして。
透さんに、完全に沖矢さんのことがバレてしまったとすれば、赤井秀一を調べる件は無かったことにされるかもしれない。
デートの約束なんて以ての外だろう。
そう思うと鼻の奥がツン、と痛くなる感覚に襲われて。私が泣いていい訳ないのに。
涙が零れ落ちないように、瞼を閉じて蓋をした。それでも一筋流れ落ちるそれを感じながら、スマホを握りしめて知らず知らずのうちに眠りに落ちた。
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あっという間に日は経ち、あれから二日過ぎた。
いつも通り朝の台所へ向かうと、沖矢さんが笑顔で迎えてくれた。
「だいぶ顔色は良さそうですね」
あまり動いていなかったせいで体力的には落ちていると思うが、熱は下がり頭痛もすっかり治った。
「・・・お手間かけさせてすみませんでした」
この三日間は、沖矢さんにずっとお世話になって。
大学はどうしたのかと尋ねたら、問題ないと言われた。
寧ろ出かけてくれた方が嬉しいのだけど。
「いえ、貴女を介護する理由が無くなって、少し寂しいくらいですよ」
彼には視線すら向けず、そっぽを向いて聞こえないフリをした。
「彼のところへ行く時は一声掛けてくださいね」
それも聞こえないフリをしたかったが。
「・・・分かりました」
自分から会いに行く予定はないけど。
今はちょっとだけ透さんに会うのが怖い。
今だけは、彼からの愛が偽りであれば良いのに、なんて望んでしまった。