第3章 ポアロ
その後はのんびりとポアロでの一日が過ぎ、あっという間に帰宅時間となった。
その帰宅途中にスーパーへ寄った。普段お酒はあまり飲まないが、今日は力を借りて眠ってしまいたい気分だったから。
いつもはあまり立ち寄らないお酒コーナーに足を踏み入れ、色々と見て回った。ふと目に止まったのはウィスキーの瓶。
「へえ・・・おしゃれだなあ」
色々な形の瓶に思わず見入る。飲み方や銘柄については詳しくない。兄もお酒はあまり飲まないほうだったし。
でも今日はとにかく強めのお酒を入れたい。
店員さんへウィスキーのオススメを聞いて、その中から甘めのバーボンを選択した。
ウィスキー片手に帰宅しては、いつもの返事の来ない「ただいま」を言って。
荷物を置くなり早速バーボンを開けた。
「お酒って感じだ・・・」
鼻に抜けるアルコールの匂い。
店員さんにソーダ割りが飲みやすいと進められたので、その通りにして飲んでみて。癖はあるが確かに飲みやすい気がする。
再度持って帰ってきたおかず達を肴に、ウィスキーを流し込む。
あのお昼の安室さんの言葉が耳から離れない。
何度も安室さんの声でリピートされる。
でも安室さんは兄のことを依頼している探偵であり、仕事をくれた私の上司であり、ポアロでの先輩に当たる。
そんな彼に、私は。
「・・・・・・好き・・・?」
気付いてはいけない気持ち。
いや、きっと何かの錯覚。
吊り橋効果だ何だのと聞いたことがある。
きっとそれと似た何かがどこかで発動しただけ。
きっと、そう。
そうであってほしい。
自分を納得させるようにバーボンを胃に流し込む。慣れていないせいか、すぐに酔いが回って。
あとは寝るに限る。そう思って布団へ潜り込んだ。
何も無かった、全て自分の勘違い。
妙な心臓の高鳴りも。
安室さんの言葉も。
全部、全部、自分の思い込み。
そう言い聞かせている間にいつの間にか意識を手放した。