第28章 厄介物
ここに来たときはあまり気付かなかったが、どこか彼の香りがする。
まさか透さん以外の男性のベッドで眠るなんて思いもしなかった。それが沖矢さんなんて以ての外で。
しかもそこでキスまで受け入れてしまった。
自分から望んだ訳では無いけど。
彼を心から拒まなかったことに、不安と罪悪感が募る。
「・・・透さん」
確認するように彼の名前を呼ぶが、返事が返ってくるはずもなくて。
この胸の苦しさは熱のせいなのか、はたまた別のものなのか。
沖矢さんの布団と香りに包まれながら、今を忘れるように目を閉じた。
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午前中眠っていたせいか、目を瞑っていても眠れはしなかった。何を考えるでもなく、ただただ頭痛に耐えながら時間を過ごした。
沖矢さんが部屋を出て行って数十分後、扉のノック音と共に彼が戻ってきた。
閉じていた瞼をそっと開けて彼の姿を確認する。何かを乗せたトレーを手にしながら、静かにこちらへ近付く彼をそっと見つめた。
「うどんを用意してきましたが、食べられそうですか」
「・・・いただきます」
何とか体を起こそうと重だるい体に鞭を打つが、どうにも言うことをきかない。
「まだ無理はしない方が良いですよ」
トレーを置き、すかさず体を起こしてくれて。何度でも思う。適当なことを言わない口を持っていなければ、完璧なのに。
全てを台無しにする彼の性格に殆(ほとほと)溜息が出る。
「ごちそうさまです」
食べさせると言い出した沖矢さんを何とか説得し、動かしにくい体を使って食事を済ませた。
たまたまか意図してかは分からないが、柔らかく短めになっていたうどんに、彼のさり気ない気遣いを感じてしまう。
味方である彼に明らかに敵意を剥き出しているにも関わらず、こういうことをされるのが少し癪に障るというか。これは自分が弄れているんだろうけど。
「シーツ、変えておきましたが自室に戻られますか」
「問答無用で戻ります」
彼の言葉に食い気味で返すように答えた。
この部屋に長く居てはいけない気がする。
自分にとっても、沖矢さんにとっても。そして透さんにとっても。