第28章 厄介物
「逆に、魅力を感じないところを知りたいですね」
返ってきた言葉にはやっぱり信憑性がない。
この人に聞いたのは間違いだった、と小さく小さく溜息を吐いた。
少し治まっていた頭痛も、どこか戻ってきたようにも思う。
「・・・お水、頂いて良いですか」
「これは気が利かなくて申し訳ありません」
今一度冷静になりたくて、貰い損ねたそれを要求して。
沖矢さんはサイドテーブルに起き直したコップを再度片手に取り、わざわざ私の手を取りコップを握らせた。
それが優しさか意地悪かは分からなかったが、彼の笑顔を見る限り、少なくとも楽しんでやっていることが分かった。
「・・・ありがとうございます」
ふてぶてしくお礼を伝え、ストローを加えて水を吸い上げた。一口流し込めば、乾いていた体がそれらを急いで吸収するようで。
「お昼は過ぎてしまいましたが、何か食べられそうなものはありますか」
ということはかなり眠っていたことになる。
薬のおかげか少しはマシだが、相変わらず頭痛と体の重だるさは続いていて。
寝ていたせいで食欲はそこまで無いが、一つだけ口にしたいものがあった。
「透さんの手料理、ですかね」
皮肉でも何でもなくて。昨日あんな別れ方をした上、何度も失礼な態度をとった。
でも、彼に会いたくなってしまう。
あの腕の中に包まれて、溺れるようなキスをしてほしい。
沖矢さんなんて最初からいなかった、と忘れるような。
「お好きですね」
「沖矢さんの何百倍も」
どうして彼にはここまで強く刃向かえるのか不思議だったが、彼自身、自分の言葉が口半分だと分かっているから、私が怒っても彼も怒らないんだと思っていた。
「彼の料理には敵いませんが、何か用意してきます」
そう言いながら私の手から空になったコップを取り上げ、優しく丁寧にベッドに横にされた。
「大人しくしていてくださいね」
言われなくても今は簡単に体を動かせない。そう思ったが、一々口に出すのも億劫で。
布団をかけられ、ポケットに手を入れながら出て行く沖矢さんの後ろ姿を目で追った。