第28章 厄介物
「僕のこと、少しは意識してくれているようですね」
それは少なからず当たっている。
ただそれは、沖矢さんが好きかもしれない、という好意での気になるとは異なっていて。
「透さんとの時間を邪魔されるくらいには」
冗談でも何でもなく、普通に大きく皮肉を言ったつもりなのに。
「おや、それは嬉しいですね」
やっぱり彼はどこかいけ好かなくて。
一瞬でも彼に期待してしまった自分が恥ずかしい。この人は一定の線引きが必要な人だったことを改めて理解して。
「・・・勘違いしないでください」
熱でボーッとする割には、最終的に冷静に判断できた自分を褒めてやりたい。
溜息混じりに、現実から目を背けるように軽く瞼を閉じて。
「僕は貴女のこと、諦めませんから」
ベッドの沈み方が変わった。
そう思う頃にはもう、頬に手が添えられ唇を重ね合わされていた。
「・・・んっ・・・」
体は重りをつけたように重たいが、一度寝たおかげか少しは言うことを聞くようになっていて。全身の力を振り絞って彼を突き放そうと押してみるが、そんなことできるはずもなく。
行動とは裏腹に、少し沖矢さんを受け入れてしまっている自分がいるのも事実。
それが一層、透さんへの罪悪感を強くさせた。
「んぅ・・・っは・・・」
息継ぎをする余裕を与えられているのは嫌でも分かる。その要らない優しさに、嫌いになり切れない理由を一つ見つけて。
舌が優しく入っては抜かれて。リップ音が響く啄むようなキスに、熱とは違う体の疼きを感じた。
唇が触れるか否かのところで少し止められ、そこから少し顔を離されればお互いの視線が絡まって。
「そんな顔をされると、襲ってしまいますよ」
それは恐らく言葉だけではない。
彼の目が本気だと訴えている。
即座にそれを、はっきり嫌だと言えなかった自分に、大きく失望した。
でもそれくらい、彼の印象というものは変わりつつあって。
「・・・沖矢さんは私の何が良いんですか」
沖矢さんの言葉をはぐらかすようにそう尋ねて。
それは透さんへの言えない質問を重ねていた。
私は自分自身に自信がない。
容姿も、性格も、スペックも。
その辺の可愛い女の子とは根本が違う。
透さんはいくらでも理由が付けられるが、目の前の彼に至ってはそれが全く想像がつかなかった。