第28章 厄介物
「・・・私、透さんに殺されるんでしょうか」
無意識のうちに沖矢さんに尋ねていた。彼に聞いたって仕方のないことだし、彼にとってはどうでも良いことかもしれないけど。
突拍子もない私の言葉に呆れたのか不思議に思ったのか、少しだけ静かな時間が流れた。
お互い暫く無言を貫いた後、先にその沈黙を破ったのは沖矢さんで。
「言ったはずですよ」
コップを片手にしていた沖矢さんはそれをサイドテーブルに戻し、私のすぐ傍へ腰を下ろした。
一点を見つめていた視線は、自然と沖矢さんに吸い寄せられるように向けられていて。
「命をかけてお守りします、と」
そういえば、そんなことを言われた気もする。
あの時はそこまで求めていなかったけれど、今となっては少し期待している自分がいて。それが少し悔しくも思えた。
「すみませんが・・・、透さんには殺されても良いと思っているので」
「その割には不安そうですね」
その通り、なんだと思う。
だからあんなことを呟いてしまったのだろうから。
「大丈夫ですよ、そんなことにはさせませんから」
何故だか今は沖矢さんの言葉にどこか縋(すが)っていて。口角は上がっているものの、真剣に見える眼差しは私の瞳を捉えて離さなかった。
まるで獲物を捕らえたスナイパーのように。
「・・・期待してます」
上辺だけのつもりで吐いたのに、少しだけ本来の意味を求めているような気持ちもあって。
それはつまり、守ってほしいと彼に言っているみたいで。
自分が見たただの夢なのに、そんなものにまで不安にさせられて。全部全部、この鬱陶しい熱のせいだと言い聞かせて。
「素直なひなたさんは逆に不安になりますね」
捕えられていた瞳を離されて、何度目かの笑いを決められた。
それに対して怒りの感情が湧かなかったのは、彼はそういう性格だと単純に諦めているからなのか、それとも彼への信頼度が少し高くなったからなのか。
彼の言葉を鵜呑みにしてはいけないと思っているのに。
そう言い聞かせる程、あの時沖矢さんに埋め込まれたトラウマが嘘のように、そこまで彼が悪い人には感じられなくなっていた。